転売と特別価格

食語の心 第134回 柏井 壽

食語の心 第134回 柏井 壽

食語の心 第134回 柏井 壽、転売と特別価格

食材の価格が急騰し、とりわけ米の高騰は盛んに報道され、一般家庭や飲食店の悲鳴が伝えられている。

政府が備蓄している米を放出したからといって、すぐに価格が落ち着くとは思えない。

となると米を転売して儲(もう)けようとする輩(やから)が出てくるのは常のこと。専門業者だけでなく、一般人までネットオークションやフリマアプリなどを使って、転売ヤーの仲間入りを果たす時代になった。

どこまでが適法で、どこからが違法なのかはよく分からないが、いずれにせよ、人の弱みに付け込む転売は品がいいとは言い難い。

古くは地酒や焼酎、近年では国産ウイスキーにプレミアム価格を付けて転売するビジネスが横行し、愛酒家の眉をひそめさせている。

これがイベントチケットだと、ダフ屋というレッテルを貼られ、取り締まりの対象となるようだが、飲食はその範疇(はんちゅう)にはないらしい。

消費者だけではなく、蔵元や醸造元も多大な迷惑を被っているのだが、需要と供給のバランスが崩れていると、どうにも防ぎようがないと聞く。

ことほどさように転売というビジネスは買い手にも売り手にも迷惑を掛けるものだと思っていたが、そうではない事例が、突如として出てきたのは飲食業界である。

店で飲食する権利をオークションに掛けるというサイトを見て、ただただ驚くしかなかった。

いわゆる予約困難店が、自らの店で飲食する権利をオークションに出品しているのだ。

〇月▽日の夜6時スタートの席を売る、というシステムなのだが、その金額たるや10万円を超えることも少なくないと聞いて、開いた口が塞がらなくなった。

念のために付言しておくが、これはあくまで席に着く権利の対価であって、飲食代は含まれていないのだ。

こうした予約困難な人気店は、食事代に5万円以上掛かるところもあるので、一夜の夕食にふたりで30万円必要なのである。

しかもそのうち食事代より席の権利料のほうが高いのだから、飲食店バブルもここまで来たのかと、嘆かざるをえない。

繰り返し書いてきたが、おまかせコースのみ、一斉スタートの店というのは、食事というよりイベント的な色彩が強く、エンターテインメントとして店に足を運ぶ人がほとんどだろうと思う。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。