このコラムの原稿を書いているタイミングでロシアの首都モスクワをテロが襲った(2024年3月22日)。コンサートホールにテロリストが乱入。銃撃の末、40名が死亡し、100名以上が負傷するという大惨事が発生したのだ。しかもその直後に何と、イスラム系武装集団「イスラム国(ISIS)」が犯行声明を発表。さらに発生直前に米政府がロシア政府に対してそうした「テロ事件」が発生する可能性を事前警告していたとの公開報道まで流された。何ともキナ臭い、実にキナ臭いのである。
とはいえ、平穏に日々を暮らす一般人である読者の皆さんはこうした報道に触れても、きっとこう思うことであろう。「イスラム国がモスクワまで出て行ってテロ攻撃を仕掛けるというのは確かにおかしいが……しかし、さもありなんとも思えなくもない。いずれにせよしょせん、我が国からは遠いところでの出来事だ。大した話ではない」と。
これに対してインテリジェンスの世界に暮らす御仁たちは必ずや次のとおり、直感的に思ったはずだ。「まず、イスラム国によるテロ攻撃という段階で背後の事実関係を精査する必要がある。なぜならばイスラム国なる組織を訓練する場を提供したのはヨルダンであり、資金を提供したのがサウジアラビアとカタール、そしてその戦闘要員に対する軍事訓練を行ったのが米国、英国、フランス、そしてイスラエルであるとの公開情報すら一部では流布されていたからだ。ロシアは確かに中東地域、とりわけシリアとその周辺における治安の維持を事実上任されてきた経緯があるのであって、そこで何らかの利益衝突がイスラム国と生じたとの説明が可能かもしれない。しかし、実際には上記のような国際的なコンソーシアムとでもいうべきネットワークに支えられている存在であることを前提とすると、ロシアに対して何らかの要求をこれら多国籍のネットワークが押し付けたと考えるのが妥当なのではないか」
「芦屋の賢人」の言葉を今思い出す
時代を読む 第125回 原田武夫
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