ヴァン クリーフ&アーペルは、1906年にパリのヴァンドーム広場にブティックを開き、時計製造にも力を注いできた。2017年に発表された「オートマタ フェ オンディーヌ」は、その系譜を受け継いでおり、台座に時計機能を備えた幻想的なアニメーションを展開する。
これらのオートマタは、ジュエリーやエナメルによって装飾され、美しさを極めている。昨年には、ジュノ氏とのコラボで「フロレゾンデュ ネニュファール」と「エヴェイユ デュ シクラメン」を発表し、オートマタが優雅に舞う様子を表現している。
昨年のウォッチズ&ワンダーズ会場でジュノ氏にインタビューする機会を得た。
―かなりの親日家だとか?
「この仕事を続けてこられたのは日本のおかげなんです。1990年代初頭にハウステンボスでオートマタを製作し、当時スイス以上に日本で評価を頂きました。京都嵐山オルゴール博物館には私の作品7点を収蔵・展示頂いています。伝統的なからくり人形師である玉屋庄兵衛さんにお目にかかったことも印象深い」
―オートマタの魅力とは?
「オートマタに電気は不要、必要なのは人のエネルギー。それをオートマタに吹き込み、その動きを目にした人に感情的なエネルギーが還元される。その関係性は実にユニークです」
―今回の2作品の特徴は?
「ジュエリーが主役ですから、伝統的なオートマタとはアプローチが異なります。この2作品は従来よりも小型で製作時間も短縮でき、より多くの方に作品を届けたい。AIやデジタル化が進む世界で、手作業による作品の付加価値の高まりを感じます。
18~19世紀に盛んでありがなら、廃れかけつつも生き延びた工芸技法を、全く新しいもののように感じる人も多い。ヴァン クリーフ&アーペルとは、その点で価値観を共有できています。この協業をベースにアトリエを拡充し、技術継承が進むようサポート頂いていることも有意義です」
4月に控えたウォッチズ&ワンダーズ2024で披露されるであろう次回作が待ち遠しい。
フランソワ・ジュノ
1956年、スイス・サントクロワ生まれ。オートマタ作者ミシェル・ベルトランに師事する一方、地元の技術学校、ローザンヌの美術学校に学び、20歳ごろからオートマタ製作を開始。現在もジュラ山地に位置するサントクロワのアトリエで制作にいそしむ。ジュネーブウォッチグランプリ2022において審査員特別賞を受賞。
まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。
※『Nile’s NILE』2024年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています