このところ、インドに関わるニュースが何かとメディアをにぎわしている。去る10月14日、同国のモディ首相は2036年の夏季五輪の招致を目指すと表明。この年の五輪についてはポーランドやインドネシアなども招致を目指しているが、インドでの開催が実現すれば冬季も含めて南アジアとして初めての開催となる。G20(22年12月から議長国)に続く新たなイベント開催によって、国内外での求心力を維持したい政権の狙いもあるだろうが、初の五輪開催実現は一つの成長の証しとも言える。
なにしろ、インドの人口は今年4月に14億2577万人余りに達し、中国を抜いて世界一になったもよう(国連推計)。人口の半数近くが20代以下で、豊富な労働力や今後の消費増加にも大いに期待がかかる。所得水準も増加傾向で、個人消費を牽引(けんいん)する年間可処分所得1万5千ドル以上の上位中間層の比率が急激に高まっている。結果、近年は海外高級ブランドも出店するショッピングモールが急増しており、高所得層だけでなく中間層にも、家族で週末に出かける文化が広がっている。
14年に就任したモディ首相のしたたかな政権運営は、米中対立の中でもうまく中立を保ち、サプライチェーンにおける「中国外し」の恩恵を受けやすいという点も見逃せない。また、モディ政権は外資系企業の進出を促す制度改正も矢継ぎ早に実施し、統一された物品サービス税(GST)や会社法を整え、外資の資本規制も緩和した。むろん、日本企業による本格進出のニュースもよく目にするようになってきた。
「スズキ、インドをEV輸出拠点に」との大見出しが10月19日の経済紙1面トップを飾った。同社はインドの乗用車市場でシェア4割を占める最大手。インド自動車工業会(SIAM)によると23年4~9月の乗用車販売台数は、前年同期比7%増の207万163台と過去最高を更新。メーカー別に見ると、最大手のマルチ・スズキが10%増の87万3107台だった。
スズキは現地で低コスト生産のノウハウを構築しており、ガソリン車ではすでにインドからアフリカに輸出を増やし中国勢などに対抗してきた。インド向けのモデルは、気候や道路環境、経済力が近いアフリカでも通用しやすいとされる。今後は、EVでも同様にインドから世界へ輸出する。足元は、供給改善が進む中でインドにおいてSUVの新車種が好調で高い売り上げの伸びが続く。
むろん、クルマが売れればタイヤの需要も高まる。横浜ゴムは今年2月、インド東部のビシャカパトナム工場で新たな生産ラインを構築すると発表。24年第4四半期からの生産開始を予定し、インドにおける乗用車向けタイヤの生産能力を年280万本から450万本へ引き上げるとしている。さらに、クルマが売れると自動車用塗料の需要も伸びる。関西ペイントのインドでの売上高は日本に次ぐボリュームで伸び率は日本をはるかに超える。
一方、住友不動産はこのほど「インド・ムンバイ中心部で大型再開発に動く」と発表。総事業費5千億円を投じ、オフィスビルやホテル、商業施設を備えた複合型の不動産開発を進める計画という。これも高成長の流れに乗る戦略と言え、当然、消費関連でも日本からインドに商機を見いだす企業が今後は相次ぐと見られる。
THIS MONTH RECOMMEND
まずは根拠のない 自信喪失を払拭せよ
本書は、2021年6月に現・日経BPから刊行された『日本“式”経営の逆襲』の増補改訂版にあたる。日本式経営がうまくいっていた時期を、書籍等を通じてしか知らない世代の著者が「アマゾン創業者のジェフ・ベゾスのような世界的企業家でさえも日本企業の経営技術から多大な影響を受けている」という事実に触れ、日本に蔓まん延えんする根拠のない自信喪失をまずは払拭(ふっしょく)せよと説く。今こそ日本の「強み」を再認識して“逆襲”すべきときと気づかされる。
田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。
※『Nile’s NILE』2023年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています