かつて腕時計のケースと言えば、イエロー、ピンク、ホワイトなどの18Kゴールド、プラチナ、ステンレススチール、チタンなどの単一素材、ないしコンビネーションが一般的だった。そこに一石を投じたのは、2004年にウブロCEOに就任したジャン︲クロード・ビバー氏だった。
ビバー氏といえば、1983年にブランパンを再興して機械式時計の復活をリードして以降、さまざまなトレンドを生み出し、ウブロの再活性化を成功に導き、現在は自身のブランドに注力している時計界のリビングレジェンド。スウォッチグループの要職を2003年に辞し充電期間に入っていた彼の動向を、当時全ての時計関係者が見守っていたが、ウブロに白羽の矢を立てたという情報が駆け巡ったとき、耳を疑った人は少なくなかった。
なぜなら1980年にデビューしてセンセーションを巻き起こしたウブロだったが、2000年代初頭には往時の輝きに陰りが見えていたから。しかしだからこそ可能性を見いだしたビバー氏の慧眼に、今となっては敬服するしかない。彼の目論見通りウブロはたちまちシーンの最前線に浮上し、トレンドをリードする存在となる。ビバー氏退任後の現在もリカルド・グアダルーペCEOの下で快進撃を続けている。
さて冒頭のケースの話。ビバー氏がウブロを率いて最初に打ち出したコンセプトが融合を意味する「アート・オブ・フュージョン」だった。ケースの部位ごとにゴールド、スチール、チタンなどの異なるマテリアルを用い、ミドルケースにはグラスファイバーなどの金属以外の素材を組み合わせるアイデアを具現化させていく。ゴールドやプラチナなどの貴金属の価値をまとった20世紀の高級時計とは異なり、刺激的なコンセプトが価値と直結した21世紀の高級時計の姿が、ビバー氏のビジョンにあった。果たせるかな「アート・オブ・フュージョン」は幅広い支持を集め、その後もウブロはセラミック、カーボン、近年ではサファイアクリスタルまでも自在に操る技術を手にして、新たな境地に踏み込んでいる。
ここに紹介しているベルルッティとの新作コラボモデルでは、ケースはウブロ独自の赤みがかったキングゴールド、耳の部分にはコンポジットレジン、ダイヤル、ベゼル、ストラップにアルミニオと名付けられたベルルッティを象徴するパティーヌ(皮革染色技法)で渋い光沢感のあるグレーに仕上げたベネチアレザーが採用されている。「アート・オブ・フュージョン」というコンセプトの柔軟性が、素材のみならず、コラボレーターたちとの融合をも招き寄せ、常に鮮度を保つことに寄与している。
ウブロを嚆矢とする異素材の組み合わせケースは、その後の腕時計シーンで大きな潮流となっていく。その中で、最近注目する一つが新興ブランド、ノルケインの「ワイルド ワン」というモデル。ノルケインは、スイスで長年時計製造に関わってきたファミリーに生を受け、ブライトリングでキャリアを積んで独立したベン・カッファー氏が、18年に30歳で創業。夢を持って挑戦するマインドの若い層を意識したモデルで支持を広げている。
そのスタンスに前述のビバー氏も共感し、取締役会顧問として関わっている。ビバー氏のアドバイスも入れながら開発したスポーティーモデルが「ワイルド ワン」である。独自の高性能カーボン複合素材ノルテックを開発し、これをメインに、チタン、カーボンファイバー、ラバー製ショックアブソーバーなど25ものパーツを組み合わせたケース構造を採用。5000Gで実施される耐久性テストもクリアした強靭さも注目に値する。