振り返ると、9月半ばに東証株価指数(TOPIX)は年初来の高値を更新し、同時に日経平均株価も6月中旬に付けた年初来高値にあと一歩というところまで上昇した。ところが、それ以降は両株価指数がともに調整局面に突入し、9月末までの間、どうにもさえない展開に終始することとなった。
実のところ、9月半ばの日経平均株価は予想PER(株価収益率)にして16倍前後という水準に達し、その時点で目先的な割安感は薄れていた。これは、日経平均株価を同指数構成銘柄の予想1株利益の平均値(以下、平均EPS)で割って得る値で、つまるところ平均EPSの値が増えなければ、指数自体の上値余地は広がってこない。
もちろん、今後、平均EPSの値が増える可能性は高いと推察される。それは、10月下旬から11月半ばにかけて相次ぐ上場企業の第2四半期(2Q)決算発表時に、通期の業績予想を従来予想よりも上方に修正してくるケースが少なくないであろうと見られるからである。
振り返ると、上場企業の第1四半期(1Q)決算の結果は、多くの場合、従来の想定を上回るものとなった。しかし、それでも多くの企業は慎重に通期の予想を据え置いた。結果、据え置かれた通期予想に対する1Q実績の「進捗率」は総じて高いものとなった(1Q時の進捗率は、単純計算すれば25%程度が妥当)。
例えば、トヨタ自動車の1Qの営業利益は前年同期比93.7%増の1兆1209億円で、通期予想の3兆円に対する進捗率は37.4%に達した。企業によっては、進捗率が40~50%程度にまで達しているケースも少なからずあった。
思えば、新型コロナが感染法上の「5類」に移行したのは5月初旬のことであり、1Q(4~6月期)の時点では「それがどの程度の効果をもたらすか」がハッキリとはしていなかった。よって、確かに1Q実績は好調だったが、それを前提に通期予想を修正することには総じて慎重だったと言える。
しかし、その後に明らかになってきた「自動車生産の回復」や「インバウンド需要の復活」などは想定以上のペースになってきている。そこで、証券大手3社は9月半ばまでに主要企業の2023年度の経常利益予想を、ともに6月発表時点の水準から上方修正してきた。例えば、野村證券は自動車17社の経常利益が前年度比43.1%増えるとし、前回予想から18.7ポイントも上方に修正した。
こうしたことから、市場では2Q決算発表時に多くの企業が通期予想を上方修正してくるとの期待を膨らませている。その結果は、本稿が読者の方々の目に触れる頃から徐々に明らかとなるだろう。
ちなみに、9月末時点の平均EPSは2075円。これが、仮に5%分上方に修正されると2180円程度となり、そのうえで予想PER=16倍の水準まで買われた場合には日経平均株価が3万5千円前後の水準に達してもおかしくないということになる。
数ある銘柄の中で、今後も物色の矛先が向かいやすいのは、やはり株価純資産倍率(PBR)が1倍未満の「低PBR銘柄」や、株主還元に積極的な「高配当利回り銘柄」、あるいは「政策保有株の解消(売却)を進める銘柄」ということになるだろう。より具体的には、自動車や自動車部品、百貨店、陸運(鉄道)、レジャー関連、外食・小売り全般などということになるものと思われる。
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田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。
※『Nile’s NILE』2023年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています