海外投資家も注目する! 日本の相対的魅力

田嶋智太郎 経済アナリスト

田嶋智太郎 経済アナリスト

田嶋智太郎 コラム114

国際通貨基金(IMF)は1月末、2023年の世界経済の成長率予想を2.9%と、3カ月前より0.2%ポイント引き上げた。1年ぶりとなる上方修正の知らせは、まさにグッドニュースと言える。

国・地域別では、米国が1.4%、ユーロ圏が0.7%、そして日本は1.8%と予想され、主要国のなかでは日本が最も高い予想となった。つまり、今足元では日本の相対的な優位性が着実に高まっているのである。よかれあしかれ、最大の要因は主要国のなかで唯一、日本だけが超低金利の状態を続けていることにある。

知ってのとおり、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年1年間で計7回もの大幅利上げを実施し、その“効果”がインフレの減速や景気拡大ペースの鈍化という形で表れている。また、ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)が高まり続けるインフレを抑え込むべく、当面は大幅な利上げを続ける構えを見せている。

その点、日銀はなおも大規模な金融緩和策を継続しており、欧米の中央銀行との方向性の違いは歴然としている。結果、一頃ほどではないものの、諸外国通貨に対する円安の状態は続いており、それが日本の相対的な魅力にもなっている。

2月下旬には日銀正副総裁の後任候補者らが所信表明を行い、ともに金融緩和策の有効性を認める発言をした。いずれ政策方針の見直しが必要になると思われるものの、そのペースはかなり緩やかなものとなる可能性が高いと見られ、欧米との金利差の観点からすれば円高方向に振れる度合いも限られると推察される。

コロナ禍における行動規制の緩和・解除が欧米より大きく出遅れたことが、くしくも日本の相対的な魅力につながっているところもある。経済活動やインバウンドの“回復”はまだ始まったばかりとはいえ、月を経るごとに訪日外客数の増加ペースも加速している。韓国からの観光客に人気の九州では、12月の外国人入国者数がコロナ禍前の19年同月の9割程度まで回復したという。

円安を一因として、日本の資産への海外からの投資も活発化している。今年5月には広島で主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催される運びとなっているが、メイン会場となる「グランドプリンスホテル広島」は昨年、シンガポール政府系投資ファンドが西武ホールディングスから買収した。

もちろん、日本株に向けられた海外投資家の視線も熱い。第一に日本株のバリュエーション(価値評価)は、依然として主要国で最低レベルにとどまっている。株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)、配当利回りなどから見た場合、かなり株価が割安な状態に放置されているケースも少なくない。

また、海外投資家が重視する自己資本利益率(ROE)の水準も着実に高まってきている。ROEを高める一つの手段として「自社株買い」が知られているが、実のところ昨年の国内上場企業の自社株買いは過去最高を更新している。海外投資家は日本企業の「賃上げ」にも関心を寄せており、いよいよ本格化してきた春季労使交渉などの行方次第では、かなりの見直し買いが入ってくる可能性もある。

米国の利上げペースが縮小して年内には利下げが始まる可能性もあることや、中国の経済活動再開が本格化していることも、年後半に向けた日本株上昇への期待につながっている。

『日本の伸びしろ 悲観を成長に変える思考力』
『日本の伸びしろ 悲観を成長に変える思考力』/出口治明/文春新書/935円

RECOMMENDATION FOR THIS MONTH

理想的な社会を実現するために
必要なこととは?

問題・課題が山積みの日本は、それだけ“伸びしろ”が大きい。よく言われることではあるが、真に実効性が高いと思われる問題解決策を、具体的かつ多面的に示している書は意外に少ない。その点、本書は「トイレとゴミ箱」、「車椅子とベビーカー」など、身近な事例を用いながら、実に前向きなヒントを数多く示している。最終章において日本人が起こすべき重要な変化は「日本の政府を変えること」としている点には大きくうなずかされる。

田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。