すでに報道されたとおり、外国為替市場における円安の流れは10月21日にドル/円が152円近くまで上値を伸ばしたところで一服した。むろん、一つには日銀が大規模な円買い介入を実施したことが大きい。加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ各国・地域の主要な中央銀行が、そろって政策金利の引き上げペースを緩めはじめていることも円安に歯止めをかける要素としては重要である。
執筆時において、FRBは政策金利であるフェデラルファンド金利の引き上げ幅を11月に実施した0.75ポイントから12月には0.5ポイントに縮小すると見られている。また、英中央銀行のイングランド銀行(BOE)は11月に0.75ポイントの利上げを実施したものの、この先の大幅利上げの可能性についてはベイリー総裁が強く打ち消している。さらに、オーストラリア準備銀行(中央銀行)も10月と11月の利上げ幅を9月の0.5ポイントから0.25ポイントに縮小させた。
各中銀とも、これまでの連続利上げによって景気が過度に冷え込むことを危惧しはじめている模様であり、実際、11月の米ISM供給管理協会製造業景気指数は49.0と、ついに景気判断基準である50を割り込んでしまった。11月下旬に米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は「利上げの効果が経済に行き渡るまでの“時間差”に留意する必要がある」、「引き締め過ぎとなる可能性もある」と述べていたが、それはまさに正論であると思われる。
足元では、インフレの芽が徐々に摘まれつつあることも事実のようで、少なくとも米国の住宅価格が総じて大幅に下落し始めていることは間違いない。全米住宅建設業者協会(NAHB)とウェルズ・ファーゴが算出する住宅建設業者指数にあっては、今年に入って毎月低下し続けており、足元はデータが残る1985年以降で最長の低下基調にある。また、ここにきて米国の中古車価格の上昇にも急ブレーキがかかっていると伝わっており、それをインフレ鎮静化の予兆と見る向きも少なくないようである。
なお、筆者を含む一部の市場関係者の間には、ドル/円が10月につけた152円近辺の高値を「8年サイクル高値だったのでは」と見る向きもある。過去のドル/円の価格推移には、おおよそ8年ごとに目立った高値をつけて反落するパターンが認められており、近年では2007年6月高値や2015年6月高値がそれにあたる。まだ2015年6月から丸8年は経過していないが、前後数カ月の範囲内であり、その程度の誤差が生じても不思議ではない。
さらに、2011年10月につけた75円台の安値と2015年6月につけた125円台後半の高値、2021年1月につけた102円台半ばの安値から弾き出される「N計算値」が、ちょうど152円近辺となることも円安・ドル高の流れがピークアウトしたと考える一つの材料と見なす向きがある。
もちろん、FRBをはじめとする主要中銀が利上げを終了したわけでもなく、今後もしばらく日本と諸外国との金利差拡大は続くと見られる。まして、過去最大規模となっている日本の貿易赤字がそう簡単に縮小するはずもなく、ここから一気に円高が進むとは考えにくいことも事実である。ドル/円に関しては、今年8月安値の130円台半ばあたりが当面の円高の限界(ドル/円の下値の目安)になると個人的には考える。
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田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。