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食語の心 第47回 柏井 壽

食語の心 第47回 柏井 壽

食後の心 第47回

一億総グルメ時代を象徴するかのように、口コミグルメサイトの投稿数は天文学的数字を数えている。
たとえば僕の住まう京都市に、どれくらいの飲食店が実在するのかは知らないが、この口コミサイトに掲載されている店の数は1万6千軒を超える。

不思議なことに、市場調査によると、京都市の飲食店数は1万軒に満たない。おそらく口コミサイトには、パン屋や菓子屋なども加えられているからだろうが、それにしてもこの数字は異様だ。

当然のことだが、この口コミサイトに投稿しているのは、市井の一般消費者。言ってみれば素人である。だからこそ信用できるとも言えるし、到底信用できないとも言える。
しかしながら多くの消費者は、レストランを選ぶときに、この口コミサイトを参考にする。

では、この口コミサイトはどんな構成になっているのだろうか。

トップページの他に、座席、メニュー・コース、写真、口コミ、クーポン・地図、と6つの要素で一軒の店を紹介している。
だがこの口コミサイトで、最も注目されているのは、その店に付与された点数だろう。
店側の意向がどうあろうと、勝手に自分の店が点数化される。高点数ならうれしいかもしれないが、低い点数を付けられれば面白くないだろう。

近年のこの傾向は、「人」に対するものと対照的だ。「人」には人権があるが、「店」には「店権」とでもいうようなものはない。「人」にはプライバシーがあるが、「店」にはない。すべてがオープンにされてしまう。

本来なら異を唱えてもいいはずだが、そうならないのは、店の宣伝ツールとして、大きな役割を果たしているからだろう。痛しかゆしではあるが、集客に役立っているのだから、事を荒立てるのはいかがなものか、と思っている飲食店の主人は決して少なくない。

というのが店側のポジションだとすれば、消費者側はどうだろう。
まったくチェックしない、という人もいれば、全面的に信頼している人もおり、しかし多くはその中間。

かく言う僕も、その中間の一人で、地図を含めた店のデータは活用させてもらっているが、口コミなどはほとんど参考にしない。
点数は無視している。なぜならそこに、恣意的な操作が加えられているからだ。同じ点数を付けても、ライトユーザーのそれは軽視され、ヘビーユーザーの点数は重要視され、即反映されるそうだ。

一見すると合理的なようでいて、よく考えれば極めて公平性を欠く手法である。
ここで言うヘビーユーザーとは外食回数、投稿の多い人のことだと思われるが、そういう言わば外食マニアのような人が、必ずしも公平公正な判断を下せるとは限らない。

最近の一部の外食マニアは、料理人や店のオーナーと親しくなりたがる傾向があり、そうなると情が移ってしまう。
あるいは、外食マニアとして、高点数を付けるべきという店もある。

京都に住んでいるとよく分かるのだが、神格化されている店の点数は異常に高い。確かにいい店ではあるものの、万人に向くような店ではないところを誰もが絶賛し、高い点数を付けている。
おそらくは、その店を評価しないと、味オンチ、店オンチだと思われそうだから、という理由からだろう。

たとえば京都で一番点数の高い店は、すべて店側が主導権を握り、客はそれをありがたくいただく、というシステムで、かつ茶懐石の作法にのっとったスタイル。茶の湯になじみがない客にとっては、どこかしら窮屈さを感じてもおかしくないはずだが、そういうネガティブな口コミは一切ないようだ。百人が百人、こういう食事がベストだと思うなら、茶道人口がもっと増えてもいい。

この店を褒めないと食通からバカにされるのではないか。そんな強迫観念とでも言うべきものが蔓延しているのが、口コミサイトにおける点数や口コミに反映した結果だと認識している。
そこさえ押さえておけば、口コミサイトは店セレクトに大いに役立つ。それは写真によって、明らかにされる情報。

写真というものは情も挟まないし、恣意的に変化したりもしない。ありのままを写しだしてくれる。写真はウソをつかない。
その話は次回に。

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。

※『Nile’s NILE』2017年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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