コロナ禍はさまざまなところに影響を及ぼしているが、長く続く会食自粛は、グルメ番組の様相をもがらりと変えた。
コロナ禍以前はテレビのグルメ番組と言えば、人気の店、はやっている店にタレントが出向き、客席で料理を食べながら、大げさなアクションを交えつつ、感想を述べるというシーンが、お決まりになっていた。
しかしながらコロナ禍においては、店へロケに行くとなると、感染のリスクが生じる。
スタッフ、タレント、店の従業員の三者が絡むロケをせずにグルメ番組を作るには、どうすればいいか。
行き着く先は、例によってリモートである。店に設置したカメラで映像を撮り、それをスタジオで見ながら、レポーターが解説を加えるという方式だ。
臨場感には欠けるが、感染リスクはなくなる。ときにはスタジオで試食するという形も取られ、苦心の跡が見受けられる。
そんなグルメ番組だが、さらなる問題も提起される。
感染蔓延を防ぐという目的のもと、積極的に外食を勧めるような場面はいかがなものか。自粛警察とも称される人たちからクレームが付く恐れもある。
となると、顔の売れているタレントたちは尻込みしてしまう。SNSなどを通じて非難される恐れがあるからだ。そこで起用されることになったのが、グルメ通を自任する素人たちである。
今やウェブ上には、グルメブログと呼ばれるサイトがあふれかえっている。一年に何百軒食べ歩いているだの、これまでに食べたラーメンは何千杯だとか、多くは数自慢だが、その手のブロガーたちは、メディアに露出したくてウズウズしている。
番組を作る側も、ブロガー側も、双方ともまさに、渡りに船なのだ。
かくして、365日、毎食パンを食べているというブロガーが、とっておきのパン屋を紹介するという形で番組が放送されるに至る。
視聴者にとっては、より専門的な知識を持っていそうなブロガーのほうが、有名タレントより信頼できるような気がして、さらには身近な存在に見えるからウケもいい。
加えてこういうブロガーは有名になることが目的なので、高額なギャラを請求される恐れもなく、番組制作費を安くあげることもでき、一石二鳥にも三鳥にもなる。
そんなグルメ番組を見ていると、俗に言う食レポには、一定のパターンができていることに気付く。
実際に食べながらレポートするときも、食べずに紹介だけする場合でも、とにかく絶賛するのが必須とされているようで、かつ、それまでの経験と比較して褒めちぎるのも、お約束になっている。
たとえばそれがハンバーグだったとしよう。
「見てください、この切り口。ナイフを入れると、肉汁があふれ出てきます。わたしはこれまで1000軒以上でハンバーグを食べてきましたが、こんなに肉汁が出てくるのを見たことがありません。
そしてこのやわらかさ。歯茎だけでかみ切れてしまいます。近江牛をシェフ自らたたいてミンチにしていますから、味はもちろん折り紙付き。間違いなく、わたしの生涯ベストワンハンバーグです」
とまぁ、こんな調子で、タレント顔負けのオーバーアクション付きで、食レポを披露する。
一例としてハンバーグを挙げたが、ラーメンだろうが、カレーだろうが、ステーキだって、似たようなものだ。
とにもかくにも、過去の経験を引き合いに出して褒めちぎる。これを食べないと一生後悔する、とまで視聴者に思わせようと、涙ぐましいまでの食レポを展開するのだ。
はて、どこかでこういう場面を見たことがあるなと考えて、はたと思い当たったのが、テレビショッピングという番組だ。
健康食品を始め、宝飾品や電化製品などを宣伝販売するのだが、たいていは懐かしいタレントが出てきて、その質や価格に驚いてみせる。あの手法とよく似ているのである。
全盛期を過ぎたタレントには、なんとなく親近感を覚える。そしてそのタレントはテレビで見かける機会もほとんどないから、家電通を自称したとしても疑いようがなく、その言をつい信用してしまう。
アマチュアのグルメブロガーと存在感も似ていれば、そのセールストークもよく似ている。グルメブロガーが食レポをする番組は、ある意味でテレビショッピングなのだ。
柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!』(講談社)など著書多数。
※『Nile’s NILE』2021年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています