外務省を自主退職してから早いもので11年が経つが、その間、繰り返し感じてきたことがある。それは「我が国ではなぜ、ここまで何が問題なのかが分かっているにもかかわらず、誰もその本質的な解決を図らないのだろうか」ということだ。
もっともこのことについては自主退職をする前、米国において根元的な「本当のユダヤ勢力(セファルディ)」のリーダーに連なる人脈に属する方から言われたことがある。私がそうした「本当の問題の解決のために外務省を辞めて外に繰り出す」と言ったらば、その人物は私に笑ってこう言ったのだ。
「その気持ちは痛いほど分かる。しかし、これまで同じように思い、動こうとしてきた人たちはたちまち壁にぶつかり、最後はなえてしまった。それでもあなたは、その道に入ろうというのか」
正直言うと当時、私には何のことを言っているのか分からなかった。だがその後、東奔西走している間に徐々に気付いたのである、この人物があの時語っていた壁の正体が何であるのかを。
それは私たち日本人の一人ひとりの胸の中にある「安逸を求めてやまない心」である。ささやかではあっても一度、幸福を得てしまうとその状態を何とかして守り続けようと躍起になる。「そうした状態は未来永劫続きませんよ。すぐに次に向けた一手を打ったほうがよい」などという外からのアドバイスには絶対に耳を傾けなどしないのである
その結果、外から見ると刻一刻と破局へと至りつつあるのがはっきりしているのだが、事態は一向に変わらないのである。驚いたことに集団の中でほとんど全員が「それでも何とかなる」と思っている。たまに突然変異的に「いや、これから危機が訪れるのではないだろうか」などということを言うやからがいたらばもう大変だ。文字どおりの「村八分」が行われ、そうした発言、あるいはその発言者そのものの存在すら抹殺されてしまう。
最近、このことに関連して大変興味深い本を一冊読んだ。落合莞爾著『天皇とワンワールド』(成甲書房)だ。氏が書かれる書籍は、あまりにも「検証不可能な歴史に関する記述」ばかりなのでやや辟易(へきえき)もし、これまでならば流し読みの程度にするのが常だった。しかし、この本は違った。概要こんなことが書かれていたからだ。
「人類社会には国体と政体がある。普段、暴力装置を用いて政治を行うのが政体だ。それは常に既得利権構造を伴うため、最後は自分自身で変革を図れなくなる。そこで登場するのが前者であり、普段はそうとは見えない力を持った者たちが一斉に動き出し、政体そのものを突き崩す。これが我が国、そして世界において繰り返されてきた本当の歴史なのだ」
私はこの件(くだり)を一読して脳裡(のうり)に落雷を受けたかのような衝撃を感じた。「世の中を変えたいのであれば、政治家にでもなればよいのではないか」とこれまで何度も言われ続けてきた。だが、どうしてもしっくりこないのである。私が行いたいのは「在るべき世の実現」に過ぎないのだが、現実政治は利権の創出とその維持だからだ。それではどうすべきか。そう悩み続けてきたのである。
だが今、ようやく答えを得た気がするのだ。在るべき世を創り出せるのは普段は昼行灯(あんどん)を装いつつ、「その時」になるや否や一撃必倒で動き出す「国体勢力」なのだ。そして、それらは我が国の本当の権力の中心に、いずれも何らかの形で連なっている。
このことを胸に秘めながら4月27日よりまずは、杜(もり)の都・仙台から経営リーダーとアントレプレナーを対象としたプロジェクトを始動した。今後、四国、九州と拡大開催していく。「農村から都市を包囲する」毛沢東戦略で眠れる獅子を揺さぶり起こしていく。どの地でいかなる「国体勢力」と出会うことになるのか、今から楽しみで仕方がない。
原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。
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