ニッポンに「回転ドア」ができる日

時代を読む-第17回 原田武夫

時代を読む-第17回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第17回 ニッポンに「回転ドア」ができる日

昨年(2013年)、いつもの世界一周出張を終えた直後、一念発起して英語ブログを書き始めた。世界標準となっているWordPressの上で、自ら創ったのだが意外や意外、世界中から毎日アクセスがある。実に100カ国近くの国々から既にアクセスしてきているのだ。

そのような中で、たまにコメントをもらうことがある。もちろん英語だ。先日、そんなコメントの一つを米国からもらった。送り主はMatthew Thomas、ハーバード大の卒業生だ。現在はProspect Madisonとうコンサルティング・ファームを共同経営している。

彼がなぜ私にアクセスしてきたのかといえば、まず私がハーバード・ビジネス・レビューに掲載された彼の論文について、件の英語ブログ上でコメントしたからだ。テーマは「三叉セクター・リーダーシップ」、すなわち政界・官界・財界の三つの領域でバランス良く経験を生んだリーダーたちこそ、これからの時代を創り上げていくのではないかというものだ。

私はこの論文を読んでまず「これだ!」と思った。私自身、キャリアの外交官として務めてきた外務省を自らの意思で後にした。その時私は「これだけでは人生つまらない」と思ったのである。

一つの道を勤め上げるのは、確かにすばらしいことではある。だが、アジア通貨経済危機を迎えたあたりから、時代はそれまでとは全く違う方向へと向かい始めていた。

外務省にいて最も違和感を覚えたこと。それは全世界を覆い始めた金融資本主義とは、全く無縁のところで「外交」が行われているという事実である。金融資本主義とは何であり、その問題は何なのか。当時、我が国の外交官、いや霞が関の住人の中で、的確に答えることができた者はいなかった。ましてや「これからどうなるのか」考えられることもなかった。

そこで私はある日思い立ち、外務省を飛び出すことにした。「なぜか」と多くの知人・友人たちがいぶかしがった。私はどうしても「新しい時代の風」の最先端に立ちたかったのだ。

その時の「想い」と相通じるものをMatthewの論文に感じたのである。だが、同時にどうしても拭えない違和感をそこで覚えたのも事実だ。米国ではいわゆる「回転ドア」と呼ばれる柔軟な労働市場がある。政権交代の度に大勢の人たち、特にエリートたちが政治家・官僚・経済人の間を行き来し、居場所を見つけ直すのである。そして、全体として広い人脈を創り上げる中で「上へ、上へ」と目指していくのだ。

だが、我が国の社会は完全に「縦割り」である。縦に割られたセクターの間を人が行き来することはほとんどなく、それでもあえてこれを行うと変人扱いされる。しかも「政界」は社会の敗者復活戦であり、「官界」は袋叩きの格好のターゲットと相場が決まっている。「財界」でそれなりに成功しているエリートたちが、あえて飛び込む必要もないと認識されているのだ。

私は我が国のこうした現状が続くべきと言いたいのではない。むしろ逆だ。我が国が早ければ2016年後半からハイパーインフレ懸念の下、深刻な金融恐慌に陥る可能性すら出てきている中、「オール・ジャパン」の結束が不可欠だからだ。そのためにはこの「三叉セクター・リーダーシップ」を担う若きリーダーたちが“ニッポンの洗濯”のため、必ず不可欠になるはずである。

「ニッポンの現実はあなたが考えているほど甘くない。そうしたリーダーが必要なのは確かだが」

我が国でも、このリーダーシップを教育する仕組みを一緒に創らないかと言ってきたMatthewに、私はまずそんな現実論を伝えておいた。しかしそれでも「Skype会議をしてくれ、ぜひ」と先方は言ってくる。どうやら、ニッポンにも「回転ドア」ができる日がほんの1日だけ近づいたのかもしれない。

原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
https://haradatakeo.com/

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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