北方領土がタックスヘイブンになる日

時代を読む-第3回 原田武夫

時代を読む-第3回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第3回

表向きはお互いに全く無関係のように見えるが、並べて比べてみると相互につながっていることに気付く出来事がある。とりわけグローバル・マクロ、すなわち国際的な資金循環を中心に国内外情勢をウオッチしていると、しばしばそのことに気付く。結局は、マネーがどこからどこへ移動しているのか。これが世界史を動かしているのだ。

今年4月29日。安倍晋三首相はモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と首脳会談をした。それを踏まえ、実に10年ぶりに「共同声明」を発表するところまでこぎつけた。

しかし問題はその後に生じた。3時間にも及ぶ首脳会談の席上で、プーチン大統領はこれまで中国やノルウェーなど他の隣国たちと、どのように領土問題を解決してきたのかを説明。「面積を等分することで解決してきた」と述べ、暗に我が国との「北方領土」についても同じように解決しようではないかと示唆したことが明らかになったのだ。

これは全くもって由々しきことである。

なぜならば北方領土は我が国固有の領土であり、国際法上、ロシアは旧ソ連時代から不法な占有を続けてきているからだ。「面積等分」などという議論をしたいということ自体が、盗っ人たけだけしいと言うべきなのである。

だが、なぜそこまでしてロシアは、北方領土にこだわるのだろうか。これに対しては漁業権のためであるとか、あるいは安全保障上の理由からといった模範解答が頭に浮かんでくる。

しかし、本当にそれだけのことなのであろうか。

実は、このことともう一つ別の「事実」とをつなぎ合わせると、全く違う構図が浮かび上がってくるのだ。我が国から遠く離れた地中海の国・キプロスが今年3月になって、いきなりデフォルト(国家債務不履行)騒動を引き起こした。ロシアはキプロスに大量のマネーを預けてきた。そのため「キプロスが破産したならば、ロシアはどうなるのか」と大騒ぎになった。

この渦中にあった3月21日、ロシアのメドベージェフ首相が奇妙な発言をしたのである。「キプロスの状況に鑑みて、北方領土を含むロシア極東地域にタックスヘイブン(租税回避地)をつくってはどうか」

あまりに唐突な発言であったが、これでロシアの真意が明らかとなった。

つまりこういうことだ。――ロシアは我が国に隣接するという地の利を生かして、ジャパン・マネーが滞留する拠点として「北方領土」を用いたいのである。「アベノミクス」以来の株高は日銀による「異次元緩和」のおかげで、2015年春までは少なくとも「日本バブル」とでも言うべき状況を招く。中東戦争勃発などにより「我が国以外に投資先がない」という状況が訪れれば、なおのことである。

これを見たロシアが有り余るジャパン・マネーの受け皿として手を挙げたのだ。しかも、4月になるといわゆる「オフショア・リークス」と呼ばれる事件が発生。西側諸国にあるタックスヘイブンは情報公開の嵐に巻き込まれ、世界中のマネーは逃げ場所を「共産圏」に求めつつある。だが共産圏は共産圏であり、マネーを預けるには抵抗感を覚えるのだ。

そうであるならば「共産圏」を卒業し、しかも我が国に隣接したところに預けたい。

――そんな日本人の人情を巧みにくすぐるのがタックスヘイブンとしての北方領土なのだ。 特に我が国の政党は、いずれもオフショアで資金運用をしているので、これに強い関心を持つはずである。北方領土は「日本が4島保有の権利を主張するが、2島だけが返還され、残り2島にはジャパン・マネーが優先して預けられる」という形で、解決が見られることになる。

このあまりにも魅力的な提案の背後にあるロシアの深謀遠慮を見抜けるか否か。日本外交の知性が問われている。

原田武夫(はらだ・たけお)
東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省に入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年に自主退職。2007年から現職に。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という思いのもと、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で行う。近著に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)『「日本バブル」の正体~なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』(東洋経済新報社)がある。
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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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