物色の矛先は「リオープン」「インバウンド」関連へ

Text 田嶋智太郎 経済アナリスト

米国の代表的な株価指数であるNYダウ工業株30種平均(NYダウ平均)が5月3週まで8週連続で下落した。米国におけるインフレの加速や米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め方針に対する市場の見立てが極端な悲観やタカ派に傾き過ぎていたことによる。

その後、NYダウ平均は大きく切り返すこととなるのだが、その最大の要因は米国のインフレが鈍化の兆しを見せ始めていることを指し示す複数の指標結果が明らかになったためである。

積み木

まず、5月下旬に発表された4月分の米個人消費支出(PCE)価格指数は変動が激しい食品とエネルギーを除くコア指数が前月から減速した。また、4月分の米新築住宅販売件数や米中古住宅販売成約指数も前月の結果や事前の市場予想を大きく下回った。

米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の発表によれば、米国の住宅ローン金利は足元で大幅に低下し始めているという。依然として高水準ではあるが、とりあえず上昇一服となったことは市場に一つの安心感をもたらすものと言える。

既知のとおり、FRBは今年に入ってすでに2回の利上げ実施とバランスシートの縮小に着手することを決めている。さらに、FRBは6月中旬と7月下旬に行われる米連邦公開市場委員会(FOMC)において0.5%の大幅利上げ実施を決議する可能性が高いとアナウンスしている。つまり、7月のFOMC後には米政策金利が1.75~ 2.0%にまで引き上げられる公算が大きい。

そこまで手を打てば、さすがにインフレも落ち着くだろうと考えるのが市場である。加えて、7月下旬にもなれば足元のインフレの元凶の一つである供給制約の問題もかなり解消に向かっているものと予想される。むろん、6月1日に中国・上海の都市封鎖(ロックダウン)が解除されたことも、供給制約問題の解消に大きく貢献するものと見ていいだろう。

なおもエネルギー価格の先行きは不透明なままであるが、石油輸出国機構(OPEC)代表筋からは「OPECプラスが現行の生産協定からロシアを一時的に除外する可能性がある」とも伝わる。ロシアがOPECプラスのかじ取り役から外れれば、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの加盟国が増産しやすくなると市場は見ている。また、互いに距離を置いてきたサウジアラビアのムハンマド皇太子とバイデン米大統領が近く初会談の場を設ける可能性があるとも伝わっている。そうでなくとも、足元では米国内における石油・ガスの掘削装置(リグ)の稼働数が漸増してきている。米国産シェールの生産量が拡大すると見れば、少なくともエネルギー価格の上値は抑えられやすくなると見られる。

総じて、執筆時における市場の悲観とリスク回避のムードは解消に向かい始めている。米国株には一定の戻り余地が生じ、連れて日本株も戻り歩調をたどり始めた。少し前から、日本国内では経済活動再開の動きが活発化し始めている。6月10日以降は、段階的に訪日外国人観光客の受け入れも再開される。

当然、市場の期待は空運や旅行・宿泊、外食、小売りなどに携わる企業の株価に向かう。いわゆる「リオープン」や「インバウンド」に関連する銘柄の上値余地は広がりやすくなると見られる。

書籍
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田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。

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