ピロールで日本と世界を立て直す

時代を読む 第44回 原田武夫

時代を読む 第44回 原田武夫

先日、念願の福井訪問を実現することができた。何せ高校生の自分が級友たちと「青春18きっぷ」で旅行をして以来のことである。あれから約30年も経ったのかと思うとまずは感慨深くなる。もっとも今回は「センチメンタル・ジャーニー」のために福井まで出向いたわけではないのだ。無論、明確な目的があった。「ピロール農法」を現場で見学するためだ。私たち現代日本人の生活はあまりにも忙しい。3食食べられればよいほうで、時には2食、しかも全部がコンビニエンスストアで安物を買って食べるといった人たちも大勢いるのが現実だ。腹が減ると「コンビニ」に駆け込み、味の濃い食材と安いアルコールを買い込むのである。

だが、英語で“You are whatyou eat.”と言うのである。要するに「食べたものそれ自身があなたそのものだ」ということなのだ。粗雑な食べ方で、しかも化学調味料が満載の食べ物ばかりを食べていると、おのずからそれにふさわしい自分になってしまう。臓器が溶かすことのできない化学物質は着実に体内にたまり、私たちの肉体を蝕(むしば)んでゆく。それでも放っておくと、やがて自然が私たちを物理的に淘汰し始める。要するに「病気」になる、「老化」して、最後は「死亡」するのだ。とても単純なことなのだが、どうしても私たちは忙しい日常の中でこのあまりにも単純な原理原則を無視してしまうのである。その結果、「アッ」と気づいた時には、時既に遅しなのだ。

しかもこれが我が国では「民族単位」で生じている現象なのだから目も当てられない。食育は基本中の基本だというのに、家庭科でせいぜい初歩的なところを学ぶだけである。ましてや成人教育の中ではややカルトじみたものを除くと、科学的根拠や社会的な意義が十分に担保された食育が行われているとは言い難いのだ。その結果、私たち日本人は着実に蝕まれている。「民族そのもの」がやられてしまっているのである。

第2次世界大戦で「敗戦」した我が国で、農業技術者たちがもっとも危惧したのはまさにこの点であった。敗れたとはいえ、体つきが全く違う小さな「日本兵」は当時、「なぜそこまで元気なのか」と恐れられていた。私たちは戦後教育の中で「戦時中の我が国はひもじさに満ちあふれていた」とばかり教えられているが、戦場の日本兵の体力ほど恐れられていたものはないのである。そうであるからこそ、その秘密である「食」に、占領軍たちが目を付けるのは時間の問題だととらえられていたのだ。そして一方では米国流の「石油=農薬漬け」の農業への転換、他方ではソ連流の「イデオロギー漬け」の集団農業が実際襲い掛かってきたのであり、とりわけ前者に我が国は完全に侵食され、「勇猛な日本兵」のベースとしての食は完全に失われてしまったのである。

今回、福井を訪れたのは、そうした戦後日本におけるトレンドに敢然と立ち向かう「ピロール農法」を学ぶためだった。これは藍藻(シアノバクテリア)を土壌で活性化させ、それによってカルシウムなどのミネラルが豊富であり、かつ弱アルカリ性である農作物を創り出す手法なのだ。しかも他の技術では農作物に取り込まれることのないビタミンB12が作物中に大量に含まれている。これらによって食べる側の消費者は体内がややもすると酸性になりがちな現代日本の中でアルカリ性へと戻り、酸化=老化を防ぐことができると共に、造血作用が活性化することで明らかに元気になるのである。開発者であり、40年越しのエバンジェリストである黒田与作氏の元気はつらつな様子を見ると、その威力は明らかなのだ。

「我が国を中心とした世界秩序への転換は意外にも“食”から始まるのでは」と痛感した今回の福井行きであった。福井には確かに派手なものは何もない。しかし本物の「食」はある。意外なところに「次の時代への扉を開く鍵」は転がっているのだ。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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