コロナ禍とテレワークの功罪

時代を読む-第88回 原田武夫

時代を読む-第88回 原田武夫

サイバー鍵

新型コロナウイルスによるパンデミックで引き続き私たちの心がむしばまれている。このコラムでも書いてきたとおり、私自身は「コロナ禍」なるものが多分に人為的なイべントであり、同時に結局のところ免疫力の問題でしかないと最初から考えていたため、おかげ様で心身共に健常さを保てている。ところが身の回りを見回すとどうやらそうではない御仁が大勢いたようだ。

誠に遺憾ながら、私の経営する研究所でこれに関連し、憂慮すべき事態が7月末になって発生した。すでに対外公表もしているとおり、弊研究所のITシステムに何者かが侵入し、データに対し不正にアクセスした形跡があることが判明したのだ。本稿執筆段階では本件について、当方からの被害届を受け、捜査当局が事実関係の特定を急いでいる最中であるのでその子細をつまびらかにすることはできない。現段階までにこれを通じたデータ漏洩(ろうえい)は確認されていないものの、いずれにせよ本件を通じてお客様そして多くの皆様方に多大なるご心配をお掛けしたことにつき心からおわび申し上げたい。誠に申し訳ございませんでした。

ITシステムは手段に過ぎない。実体としての「世界」は生身の存在である私たちの側にある。ところがこれを倒錯させ、システムの側にこそ真実があると考え、その中に取り込まれてしまう者たちがいる。これはこれからの科学の発展が明らかにすることだが、四六時中、電子が行き交う世界の中に身を置いていると確実にむしばまれていく。そしてある意味興味深いことに、そんな時、私たちの心境はなぜかネガティブになるのである。悪しきこと、汚らわしきことばかりを考え、他人に対して怒るばかりで自分を省みない「他責の人」となる。

そうした中で今回のコロナ禍なのである。罹患するのではないかという恐怖感が常に襲ってくる中、私たちは全員、テレワークを強いられている。そもそもネガティブな恐怖感が持続的にある時に、ITシステムに取り囲まれることによる負の効果が加わるのである。普通であれば何もしでかさない者であっても、こうした負の連鎖の中で「犯罪者」に転ずるということは容易に起こり得ることだ。今回の事件を通じて私は深く学ばせてもらった。

事は事だけに、いずれにせよ再発防止の努力をするしかない。世界最高峰のサイバーセキュリティー専門家にご相談し、助力を願ったところ、弊研究所に対する協力を二つ返事で約していただけた上に次のようなコメントを頂いた。

「 既存のITシステムとそのセキュリティーシステムをいかに組み合わせたところで結局は何も防げません。なぜならばアクセス権限のある内部の者が豹変し、悪意をもってデータを持ち出せば結果、漏洩は発生するからです。しかしそもそもこうしたインシデントを防ぐ手段はあります。それはデータを持ち出したとしても、外部ではこれが開けないような暗号を掛けてしまうことです。そしてその暗号も従来の暗号システムではない、全く新しいものである必要があります」

災いを転じて福となす。コロナ禍で生じたデータ不正アクセス事案のおかげで、全く未知の世界である「最新鋭の暗号の世界」への扉が今、私の目の前で開き始めた。デジタル文明がもはや不可逆的であり、その中で意識の低い者たちがネガティブな感情を抱き続けるのも不可避である時、ある種の性悪説に基づきつつ、最初からシステムそのものに「自己免疫力」をつけさせるしかない。これを機に世界で最先端のデジタル系企業へと弊研究所を変貌させていく。ご期待いただければと思う。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。