暗号資産あれこれ(承前)
暗号通貨≠暗号資産?
前回は主にDogecoinをめぐる暗号通貨の話を書きましたが、今回は暗号通貨全般の話をしたいと思います。既によくご存じの方もおられるかと思いますがしばしお付き合いください。
わが国ではG20の決議に合わせて、2019年から暗号資産という呼称に統一されましたが、米国では依然として暗号通貨(Cryptocurrency)が一般的名称です。両者は同じものです。
暗号資産と法定通貨の違い
暗号資産はインターネット上でのみ取引される通貨を指す暗号化されたデジタル通貨で、物理的な実態はありません(Dogecoinをいくら探してもネット上にしか存在しません)。
利用目的には商品やサービス代金の支払いや海外送金、リアルな通貨との交換や、ウォレットと呼ばれるアプリを利用して、暗号資産を他人の口座に移転すること等があります。世界中で通用するのも大きな特徴です。
その他の大きな特徴として発行量に上限があることがあります。暗号資産を購入するには暗号資産交換業者を通じて購入することになります。ググると即座に何社もの業者がリストアップされます。
ただし現実的には後述のビットコインを始めとして、もっぱら保有して値上がり益を待つためのことが多いようです。円やドルのように一国の政府がその発行量を管理する法定通貨に対して、暗号資産は発行者や管理者が存在せずネット上で自主的に管理されています。
法定通貨に対するかねてからの批判として、管理の厳密さが政治家の都合でしばしばゆがめられて供給量が増減することがあります。選挙が近づく度に時の政権による金銭バラマキ政策が発動されるのは、日本に限ったことではありません。
その点、暗号通貨はそのようなことは原理的にありえないわけです。その点が、各国中央銀行が暗号資産を恐れている理由なのかもしれません。
暗号資産の価格は本来その需給バランスで決まり、その価格に影響を及ぼすものとして信用度や知名度、将来性などがありますが、Dogecoinの例のように、SNS特有の集団心理的要素もあります。
最も有名な暗号資産はビットコインです。ビットコインが2009年に世界で初めて暗号資産として誕生し、それ以外の暗号資産はビットコインから派生・参考にして生まれたので、まとめてアルトコイン(Alternative Coin= 代替コイン)と呼ばれます。
ブロックチェーン
ビットコインを革新的たらしめた技術がブロックチェーンです。
多くの情報システムが中央サーバーを中央におく、いわば中央集権的な仕組みなのに対して、ブロックチェーンは特定のサーバーをおかず全取引データを参加者(ノード)全員で共有するため、どこかでデータが紛失しても、なおデータには影響がない仕組み(非中央集権型の電子決済システム)となっています。
このような経緯からビットコインはいわば暗号資産の中の基軸通貨としての役割を果たしています。
ただそのような優れた特徴を持つビットコインといえども暗号資産ならではのデメリットとして、価格変動幅が激しい、価格を保証するものがない、決済に使える店舗がまだまだ少ない等の点があげられます。
ステーブルコイン
そのような欠点を補うものとして登場したものがステーブルコインです。
これはビットコイン等が持つ価格変動が大きいという欠点を克服するために生まれたものです。Stable(安定した)通貨であるとされるとおり、価格変動を防ぐための工夫がされています。最も一般的な手法としてドルなどの法定通貨に連動(PEG)している法定通貨担保型のものがあります。
その中で代表的なものはTETHER(テザー/ USDT)です。これは1テザーが1ドルで担保されているという特徴を持っています。テザーはテザー・ホールディングスという会社が発行しており、利用者は1ドルと引き換えに1テザーを入手でき、そのテザーを持って交換所で自分の好みの暗号通貨と交換するという使い方が一般的です。
市中銀行が暗号通貨を扱っていないため、その代替案としてテザーが(1:1でドルと交換するとされているため)最もポピュラーなステーブルコインの地位を占めるようになりました。
日本では直接テザーを購入できないため、この流れとは逆にいったんビットコイン等を買ったうえでテザーを購入するという、本来の経済合理性からは乖離した購入方法になってしまいます。
このような特徴から現在、市中には約690億ドル(7兆円強)のテザーが出回っていると言われ、このことは米国連邦銀行も注視していて昨年7月には財務長官であるイエレン氏がテザーの米国金融システムに与える影響に関し、他の連銀頭取やSEC(証券取引委員会)委員長を召喚したほどです(※)。
本当に発行テザー量(7兆円!)と同等のドルを発行会社が保有しているかどうかはわからないと以前から指摘されています(※)。
次回は暗号資産と税金についてお話しします。
(※)テザーの信頼性に関する疑問については2021年10月11日のBusinessweekが特集を組んでいます。
永峰 潤 ながみね・じゅん
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。
バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
※『Nile’s NILE』2022年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています