「僕を知りたければ作品の表面だけを見てください。裏側には何もありません」。ウォーホルの言葉だ。
「一理あるでしょう。でも僕はこの言葉に、完全には賛成しかねるんです」と、飯塚隆太さんは言う。
ウォーホルは、たとえば「キャンベルのスープ缶」のように、人々が特別に意味を見いださないものをあえてモチーフに選んでいる。その一方で、それまでの絵画は、基本的に、何らかのストーリーや激しい感情を描くことで見る人の心を動かしてきた。しかしスーバーに並ぶスープ缶に、誰が意味を見いだし感動するだろうか? 「そんな人はいないでしょう。だからウォーホルは作品から意味を消すことに成功しているんです」
と同時に、「表面から裏を完全に排除するのは、結局は無理だと思います。見た目には、どうしたってその人の思考の蓄積や、生きてきた証が投影されるものですから」とも言う。だから、冒頭のウォーホルの言葉に飯塚さんは「完全には賛成しかねる」のだ。そんな違和感を今回の料理の出発点とした。
「この料理、上から見たらただの焼いた仔羊です。写真から伝わるのはそれだけ」。しかし実際には、仔羊の下にはラタトゥイユが置かれている。しかもそのラタトゥイユは色彩が美しく、食感のリズムも軽快。もちろん仔羊の火入れはしっとり、かつ香ばしく、プロにしかできない仕上がり。そして「仔羊とラタトゥイユ」という南仏郷土料理、ひいてはフランス家庭料理の定番の組み合わせを踏襲している。