パテック フィリップの新作チャイムウォッチ
11月10日、スイス時間12時59分、日本時間で20時59分。世界中の時計ジャーナリストや関係者がパソコンの前で、その時を固唾を呑んで待ち構えていた。
数日前、パテック フィリップ本社から届いた1通のメールには「Major Technical Launch(重要な技術発表)」の文字が躍っていた。ニューノーマル時代にふさわしく、オンラインでいかなる発表がなされるのか?
注目の瞬間は、涼やかな、しかし深みのあるチャイム音で幕を開けた。そこでベールを脱いだモデルこそ「パテック フィリップ・グランドソヌリ6301P」。グランドソヌリ、プティットソヌリ、ミニット・リピーターの三つのチャイム機構を一つに収めた新たなグランドコンプリケーションの誕生が告げられた。
グランドソヌリは、正時と15分、30分、45分の時とクオーターを、自動的に知らせる機能。プティットソヌリは正時とクオーターを自動的に知らせる機能。そしてミニット・リピーターは、現在時刻をオンデマンドで知らせる機能。「6301P」は三つのハンマーとゴングにより、3音階による美しいチャイム音で時を告げる。
数あるコンプリケーションの中でも、チャイム機構は、設計から製作、音色調整に至るまで、極めて高度な技術が要求される。パテック フィリップは、この機構に関しても、他を圧倒する歴史とノウハウを有する。
本社の販売台帳によれば、創業間もない1839年9月に最初のリピーター機能の懐中時計を販売。50年にはグランドソヌリ、翌51年のロンドン万博に2点のチャイム機構の時計を出品した記録も残っている。
20世紀以降も、24もの複雑機能を持った著名な「グレーブス・ウォッチ」、さらに創業150周年記念として1989年に発表された33もの機能を持った世界で最も複雑なモデル「キャリバー89」などでも、圧巻のチャイム機構を披露し、称賛を浴びた。
また創業175周年を迎えた2014年に発表した「グランドマスター・チャイム 5175」は、グランドソヌリ、プティットソヌリ、ミニット・リピーター、アラーム、さらに日付を音で知らせる世界初のデイトリピーターという五つの音響コンプリケーションを搭載し、驚きを誘った。19年には、同じ機構のムーブメントをスチールケースに収めたモデルを、チャリティーオークションに出品。日本円で約33億8000万円という史上最高落札額を記録した。
ここに搭載されたキャリバー300での技術的蓄積をベースに、三つのチャイム機構に絞り、音響性に配慮しながら小型化も実現したのが新キャリバーGS 36-750 PS IRMである。このムーブメントは、プラチナケースに収められ、本黒七宝の文字盤を与えられた。この上なく複雑でありながら、この上なく端正な表情が実にパテック フィリップらしい。
14世紀、教会の鐘で人々が時を知った当時から、時間と音とは密接な関係にあった。そのロマンを礎としつつ、気の遠くなるような技術的進化を重ねてたどり着いた、この「6301P」の誕生を歓迎したい。
●パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
TEL03-3255-8109
※『WEB-NILE』2020年12月に掲載した記事を編集し掲載しています