東京・向島に本社を構えるヒロカワ製靴は、高品質の代名詞とも言える「スコッチグレイン」ブランドで知られるシューズメーカーだ。
このブランドの最大の特徴は、熟練の職人の経験とワザがモノを言う「グッドイヤーウェルト製法(複式縫い)」が用いられていること。複雑に縫合されていて耐久性に優れている、中底と本底の間に入るEV性硬質スポンジがクッション性を生み、履くほどに足になじむ、靴底が3層構造になっていて疲れにくい、美しいステッチが象徴するようにデザイン性が高いなど、多くの美点をもたらしている。
もちろん素材は、国内はもとより世界に点在する革屋を訪ね歩いて厳選した革だけを採用。フランスやドイツのカーフ、バングラデシュのヌメ革、イタリアの中底・本底の革など、革の個性に合わせて適材適所で使われる。
ほかにも1979年の創業以来40年以上受け継がれる「木型」など、靴づくりへのこだわりは素材から履き心地、デザイン性まで、細部にわたる。
そんなスコッチグレインの靴は現在、銀座の本店を始めとする四つのレギュラーショップに加えて、アウトレット5店舗で展開している。それぞれ特徴があって、どこも魅力的だが、銀座本店はまた格別だ。「本丸」らしい風格の漂う店内に、定番を中心とする優美な靴が並ぶ。
「本店がオープンしたのは1990年、場所は新橋でした。銀座に進出したのはその7年後です。ここは銀座の中でも静かなところ。昭和通り沿いで買い物客が大勢行き交う場所ではないので、落ち着いてお買い物を楽しんでいただけます」と平形博厚店長。
工場での箱入れからキャリアを積んだ、入社34年のベテランだ。「お客様は〝銀ぶら〟というより、お食事や観劇のついでに『今日は靴を買おう』と当店を目指して足を運んでくださる方が多い」と言う。
またドレッシーなタイプが好まれる傾向があるので、その辺りの品ぞろえを厚くしているそうだ。
美しく陳列された棚に目をやると、シリーズの特徴を簡単に説明したポップが添えられている。例えば「裏革もすべて牛革? ライニング(裏革)があなたの汗を吸い取ります」とクイズ形式になっていたりして、けっこう楽しい。
また春から展開して人気を博しているのが、レギュラーショップ4店の販売員が、同じ素材を使って独自のデザインに仕上げた「ショップスタイル」の並ぶコーナーだ。「評判は上々で、売り切れのサイズも出ている」とか。店による個性の違いを見るのも一興だ。
ほかに「社長一押し」コーナーがおもしろい。もともとは東京スカイツリータウン・ソラマチ店で販売されていたカラフルブーツで、カジュアルな趣が楽しい。
「スコッチグレインは10年、20年と長く履いていただける靴です。経年による革の風合いが味わい深く、また足になじむ心地よさがあって、手放したくないゆえに自然と丁寧にお手入れをしたくなるのでしょう」
平形氏の笑顔には、品質への誇りと自信が満ちている。
●スコッチグレイン銀座本店 TEL03-3543-4192
※『Nile’s NILE』2022年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています