帝政ロシア・ロマノフ王朝の秘宝として名高いオートマタ「イースターエッグ」や、アブラアン-ルイ・ブレゲが製作し、現代では修復不可能と言われた伝説的な時計「シンパティック・クロック」を始め、歴史的名品を現代によみがえらせ、天才時計師の名をほしいままにしてきたミシェル・パルミジャーニ氏。その卓越した技術力に注目したのがサンド・ファミリー財団だった。
ノバルティスとして知られるサンド製薬グループを引き継ぎ、懐中時計とオートマタの世界有数のコレクションを所有することでも知られるサンド・ファミリー財団は、1980年以来、そのコレクションの管理・修復をミシェル・パルミジャーニ氏に託してきた。スイスの伝統的かつ芸術性の高い時計製造の深奥に触れながら、さらに技術と知識を蓄えていく。そして1996年、サンド・ファミリー財団の全面的な支援の下、その類いまれなる才能を生かしたタイムピースを生み出すべく、パルミジャーニ・フルリエが設立された。
トゥールビヨンやリピーターなどの複雑機構はもちろん、修復師としてのキャリアがもたらした豊富な知識や意匠が詰め込まれた作品は、たちまち高い評価を得る。往年のブガッティの名車のエンジンに着想を求めた、垂直型の輪列構造による斬新でクリエーティブなモデルも、愛好家の驚きを誘った。
その一方、時計製造の各部門の垂直統合を進め、自社一貫生産によるマニュファクチュールとしての体制も整えてきた。製造が困難とされるヒゲゼンマイや調速脱進機の自社製造までも可能にし、今や他社への供給までも実現させている。伝統的な芸術性とマニュファクチュールとしての生産体制の充実―、この二つを両輪として、パルミジャーニ・フルリエは20年という時間を積み重ねてきた。
動画「小鳥とピストル」
そんな20周年を象徴するアニバーサリーモデル「トンダ クロノール アニヴェルセール」が、1月のSIHHで発表された。このタイムピースには、パルミジャーニ氏の悲願だった、ブランド初の自社開発・製造による一体型クロノグラフキャリバーPF361が搭載されている。3万6000振動/時のハイビートで、複雑機構の一つに数えられるスプリットセコンド機能も備えている。あらゆる面で、妥協のない完璧さが追求された。
20年という時間の中で培われた情熱やノウハウはもちろん、過去から4世紀あまり続く伝統的な時計製造を次の世代へと引き継いでいこうとする意欲までもが、この時計から伝わってくるのである。
●パルミジャーニ・フルリエ TEL03-5413-5745
※『Nile’s NILE』2016年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています