英国にはスタイルがある。いまさらだが、そんなことを感じる。それは関連する書物を開いても、ロンドンの街を歩いてもそうだ。伝統に裏打ちされた気品と優雅さ、それと少しのユーモアが感じられてならない。
英国車にも彼ら流のスタイルがある。伝統とモダンを組み合わせたエクステリアデザインやクラフツマンシップからなるインテリアにそれがあふれる。たとえ、ある一部を切り取っても、英国の匂いを得られるはずだ。もちろん、そこには最新の技術も同居する。産業革命を最初に起こした国に抜かりはない。
このベントレー ミュルザンヌをご覧いただきたい。今どきこれだけスクエアなラインを描くクルマが他にあるだろうか。そびえ立つグリル、広大なボンネット、太いリアピラーはまさにオンリーワンと言える。
きっと他の国のメーカーなら、社内デザイナーからこういったスケッチがあがってきても採用されないだろう。伝統をアイコンとして取り入れても、ここまで大胆なカタチにはならない。
それが許されるのが英国車であり、ベントレーである。英国のスタイルをどう今日的に具現化するか、それがテーマといってもいい。きっとテーラードも同じだろう。ルールは変わらない。あとは、どう時代感を読んでこなすかだけだ。
そんな英国流スタイルは世界中で認められている。ときにスノッブで、ときにユーモラスだったりもする彼ら流のスタイルは、他の国の人をも引き付け、ファンをつくる。
もしかしたら、このクルマの名前“ミュルザンヌ”も、そんなことと関係するのかもしれない。ミュルザンヌはフランス語である。パリの西南ル•マンの南にある小さな街の名だ。だが、そこは自動車メーカーには所縁のある場所。ル•マン24時間レースを行うサルトサーキット(公道を含む)が通過する。あの長いミュルザンヌストレートはここにある。
そんな街の名前をモデル名にするのは、ベントレーが大活躍をしたからだ。彼らは1920年代から30年までに、そこで5勝もあげている。当時、国籍を問わずレース好きを虜とりこにしたのは容易に想像がつく。そうそう、その立役者がいわゆるベントレーボーイズ。オシャレなジェントルマンたちがステアリングを握り、ベントレーを勝利へと導いた。彼らもまた、英国流スタイルの申し子である。
そしてそんな背景から、ミュルザンヌの名前が付くのだが、そこには英国流のユーモアもあるように思えて仕方ない。なんたってフランス語なのである。
そんなミュルザンヌで訪ねたのは、千葉県成田市にあるグリッサンドゴルフクラブ。趣のあるゴルフ場だ。
それにしても、ベントレーとゴルフ場はよく似合う。それはゴルフが英国発祥のスポーツだからといえば、それまでかもしれない。が、個人的に思うのは、カントリークラブはそもそも社交場としての倶楽部だから。そしてそこに乗り付けるのは、昔から英国車と決まっている。
※『Nile’s NILE』2014年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています