「東の銀座、西の心斎橋」という言葉の通り、日本を代表する繁華街として知られている心斎橋。その“顔”としての役割を担い続けている百貨店、大丸心斎橋店に隣接し、新たな風を巻き起こすべく昨秋にオープンしたのが心斎橋パルコだ。
心斎橋パルコの特徴は、新しい形の複合商業ビルとしての姿を力強く打ち出している点。特に、「ビルとしての表現の振り幅が大きいと思います」と店長の緒方道則氏が話すように、ラグジュアリーからポップ、モードから日々の生活という具合に、あらゆる体験につながる店舗がそろっている。イベントスペース、ギャラリーなどの文化発信施設、充実のレストラン街も備える。
パルコといえば、心斎橋から1年ほど先立ってオープンした新生渋谷パルコのインパクトが記憶に新しい。その渋谷が掲げるテーマである「モード」「ジャパンカルチャー」「NEW飲食」「アートカルチャー」に独自のコンテンツを加えて、心斎橋パルコの全体像は練り上げられた。
新しく加わったのは、ラグジュアリー、高級飲食、スポーツ(ゴルフ)、さらにはMUJIや東急ハンズといった大型専門店、コンパクトシネコン。心斎橋パルコのコンセプトである「NEW COMPLEXビル」を体現する内容となっている。
「1階にラグジュアリーブランドのショップがありながら、6階にはクレヨンしんちゃんショップも入る(笑)。こんなビル、めずらしいのではないでしょうか」と緒方氏は話す。
また、「“パルコは若い”というイメージが強いかもしれませんが、そこを払拭しながら、上質な商品と情報を発信していきます。感度の高いミレニアル世代やニューリッチ層、その上の世代もターゲットです」とも。そこで鍵となるのが、同じJ.フロント リテイリングのグループ店で、隣接する大丸心斎橋店との連携だ。
「大丸とパルコ、それぞれの旗艦店規模のビルが隣接するという特殊性を生かし、互いを強化、補完できるのが強みです。たとえば百貨店に取り入れるのが難しい大型雑貨店やシネコンは、パルコで補完する。この2館は2階から10階までの各階に連絡通路があるので、スムーズに行き来できます。伝統と革新を、2館一つで楽しんでいただきたいです」
心斎橋エリアは近年、御堂筋にハイブランドの旗艦店が並ぶことなどから、インバウンドの来訪者で埋まる街となっていった。それゆえコロナ禍の影響が大きく、実際、昨年は街全体がひときわ静まるという状況となってしまった。
しかしこのところは、日本人の客足が戻ってきている。「パルコのオープンで、心斎橋全体の客足がさらに活性化するよう、狙っています」という。
威風堂々とした御堂筋沿い、活気ある心斎橋筋商店街、ストリート系の充実した堀江、雑多な魅力があふれる道頓堀界隈。隣接する街を含め、豊かな表情を見せるのが心斎橋エリアの魅力だ。心斎橋パルコはこの地で、新しいランドマークとして大きな役割を果たしていくに違いない。
●心斎橋パルコ
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-8-3
TEL06-7711-7400
カジュアルを上質に、鮮やかに
「ビストロカラト」では、フランスのビストロを思わせる肩ひじ張らないメニューが並ぶ。と同時に、日本の洋食を進化させたメニューにも心が動かされる。料理はいずれも軽やかでありながら素材の風味が鮮やかに表現されており、フランス料理の確かな技術が随所に生かされているのを感じる。
このように、カジュアルでありながらクオリティーが高く、強く印象に残り、面白さもある。それが「ビストロカラト」の料理なのだ。
「私は、実は調理師学校を卒業して最初に入った修業先は心斎橋の洋食店だったんです」と、オーナーシェフの唐渡泰氏は話す。
「その後フランス料理の道に進みましたが、その時に目にした料理の数々はずっと心に残っています。今回はそんな料理を店のメニューに生かすことにしました」
「新感覚“オムライス”」は、まさにそんな一品。トロトロのオムレツで覆われた中身は、トマト風味のライス。その上に深い味わいのボロネーズソースがかかり、さらに温泉卵がのり、オムレツがかぶさる。スプーンを入れると、中から半熟の卵黄が溶け出てくる、という仕掛けだ。
一方、「オマール海老半身! 野菜で仕上げた“ワタリ蟹の冷製ビスクスープ”」はフランス料理らしい一皿。スープは、ワタリ蟹を潰して作った濃厚なビスクスープに、トマトを始めとするたっぷりの野菜を加えたもの。これを贅沢にも、さっと火を入れて冷やしたオマール海老の身にかけて食べる。
「この料理を冷製にしたのは、スープの香りを閉じ込めて、口に入れた瞬間に一気に立ち昇るようにしたいからです」
また「パテ・ド ・カンパーニュのサラダ仕立て」は、20種類以上もの野菜が風味を強く主張する、驚くほど豊かな味の変化を感じられる一品だ。
どの料理も基本的にハーフポーションでも提供。そして営業時間はランチタイムからディナータイムまでの通し。
「中途半端な時間でも、しっかりとおいしいものを食べたい人は意外と多いはず。そうした人に向けています」
唐渡氏のサービス精神が存分に発揮された店づくりだ。
「お客様にとってうれしく、使い勝手がよいのはどんな店か。その点を徹底的に考え、反映させています」
お客が満足し、ワクワクする店。早くも多くのファンを引き付けている。
●ビストロカラト TEL06-6484-8286
ステーキと能の深淵
心斎橋パルコの13階にオープンした「三田屋本店―やすらぎの郷―」は、ステーキと能楽を同時に楽しむことができるレストランだ。三田市にある本店は200席を超す日本家屋スタイルのレストランで、本格的な能舞台「有馬能楽堂」を備えている。
これは、「レストランは味覚だけでなく、お客様の五感のすべてを満足させなければならない」という創業者、廣岡償治氏の考えから。食欲だけではなく、心を満足させるためには文化が必要と考え、食事をしながら能の舞を見ることができるレストランを1987年にオープンさせた。
こうした考えを継承し、心斎橋パルコの店舗では能楽師による舞囃子などの生演奏を楽しめるよう、店内のどの席からも見られる場所に能舞台を設置。
現在は新たな試みとして導入したホログラム映像で能の舞を見せ、プロジェクションマッピングで雪や花びらが舞う様子を映し出す。
もちろん、料理そのものに対するクオリティーにも自信を見せる。同店で提供しているステーキは、黒毛和牛のモモ、ロース、ヘレ、神戸ビーフのサーロイン、三田牛のヘレの5種類。
特に神戸ビーフと三田牛は、厳しい規定にのっとって飼育された牛の肉ならではの極上の旨みが特徴。一口かめば、コクのある肉汁と甘みのある脂が溶け出し、牛肉を食べる喜びを存分に感じることができる。なお三田牛は、三田市で飼育されている高級黒毛和牛で、神戸ビーフに比べてややあっさりとした味わいが魅力。年間出荷頭数が数百頭ほどの貴重な牛だ。
「三田市が誇る三田牛を、大阪の皆さんに食べていただき、味わいの深さを知っていただきたい」と、店長の下羅勝啓氏は話す。
もう一つの目玉メニューが、ロースハムだ。これは、創業者がドイツで本格的に修業して持ち帰ったハム製造の技術を踏襲して作られる、オリジナルのもの。
「肉に味を浸透させる漬け込みの期間を一般的なハムより長くとることで、味が凝縮します。それにより、しっかりとした旨みとほどよい塩味のあるハムができあがるのです」
このロースハムをごく薄くスライスし、オニオンスライスにドレッシングをかけたものを巻いて食べるようすすめるのが定番。このドレッシングもロングセラーで、ニンジン、セロリ、タマネギで作るフレッシュな味わいと自然な甘みを持つ。
「ロースハム、オニオンスライス、ドレッシングで最上のバランスができあがるよう心がけています」
心斎橋パルコ店のディナーコースでは、ステーキとロースハムに加え、3品の前菜盛り合わせも提供される。今回紹介した前菜は、「生雲丹をのせた自家製ローストビーフ トリュフの香り」「フォアグラと国産牛の赤ワイン煮」「鮑とキャビアのジェノベーゼソース」という豪華かつ手の込んだ内容だ。
ステーキとロースハムという主役を持ちつつ、少量ずつ、多彩な料理も組み込む。こうした楽しく上質な食事に加え、能の舞も楽しむことができる。そんな充実の時間を提供するレストランである。
●三田屋本店―やすらぎの郷―心斎橋パルコ店 TEL050-3204-0215
※『Nile’s NILE』2021年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています