靴好きの紳士なら、「ミュージアムカーフ」の名を一度は耳にしたことがあるだろう。そう、イタリア屈指のクロム鞣なめし専門のタンナー(革鞣し業者)、ゾンタ社が産する最高級の革である。
特徴的なのは、「タンポナート」と呼ばれる技法を駆使した、独特のムラ染めが施されていることだ。これは、染料を含んだ綿をガーゼで包み、それで革の表面をポンポンとたたくように色をつけていく技法なのだが、もとよりそう簡単ではない。卓越した技術を要する。熟練の職人が一枚一枚、手染めをし、それぞれ微妙に異なる、実に味わいのある革に仕上げているのだ。機械仕上げのものと違って、職人の感性が宿った表情豊かな革なのである。
さて、今回紹介する「モデナ」シリーズには、2タイプがそろう。一つは、ブローギング(穴飾り)が一文字状のセミブローグ。もう一つはブローキングを翼状に施した、2本のストラップが付いたダブルモンク。いずれもつま先の中央に「メダリオン」という小穴の装飾が付いている。カラーはそれぞれボルドーとネイビーの2色を展開している。
また踵が接地面に向かって先細りしている形状の華奢なたたずまいが「アークヒール」。踵からヒールに流れる曲線が、踵をエレガントに演出している。
一方で、「伝統を守る」姿勢も崩さない。「モデナ」にもスコッチグレイン本来の魅力は引き継がれている。例えば、すくい縫いとダシ縫いなど多くの工程から成るグッドイヤー製法。機械が大がかりなうえに、使いこなすには職人の経験と技能を要するため、導入できる企業が少ない中、ヒロカワ製靴は製品の全てにこの製法を採用している。疲れにくく、履き心地の良い3層構造の靴底などが、その品質の高さを証明する。
「木型」は、創業以来継承され、底面は独自構造のもの。快適に歩けるように接地面に独特なひねりが施されていて、つま先や甲周りは履き心地の良さとデザイン性が重視されている。数種類ある木型の中から、「モデナ」では「インペリアルブラックⅡと同じ木型を採用した」そうだ。
「ふつうは服装に合わせて靴を選びますよね? しかしモデナの場合、まずモデナを履くと決めてから、服装をコーディネートしていただくのがいい。ファッションがいつもよりかっこよく決まると思います。ムラ染めが個性的で華やかだし、繊細なデザインなので、どちらかというとオフタイムのおしゃれを引き立ててくれるんですよね。もちろんネイビーはビジネスシーンでも活躍してくれると思います」と話すのは、ヒロカワ製靴2代目社長の廣川雅一社長。
そして従来通り、艶出しのお勧めはモルト・ドレッシング。ダルモアのようなスコッチを靴クリームに混ぜてお手入れする方法だ。廣川社長によると、「モデナは光沢が良く、艶が出やすいので、今まで以上に靴磨きが楽しくなる」とか。おしゃれに手入れに、モデナを履く喜びがいっそう大きくなりそうだ。
●スコッチグレイン 銀座本店 TEL03-3543-4192
※『Nile’s NILE』2020年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています