程よく冷えたシャンパンが、のどを直撃して一気にくつろぎをもたらしてくれる。食事や飲み物は全て料金に含まれているとはいえ、バーテンダーは目が合うと「シャンパンいかがですか?」と口癖のように尋ねてくる。
気がつくとケープタウンの街ははるかに後方に去り、左手に見えていた午後の陽は右手に変わり、再び左手へ。列車はいつの間にかケープタウンの北に屹立する峡谷地帯に広がるブドウ畑、ワインランドの中を大きく蛇行しながら進んでいたのだ。険しい山肌は間近に迫ったかと思うと遠ざかる、この旅の車窓風景のハイライトの一つを、シャンパンの誘惑に負けて見過ごしてしまうという失敗を犯してしまった。