沖縄本土から南西約400km、台湾の東約250kmに浮かぶ西表島。沖縄県では本島に次ぐ大きさで、珊瑚礁に囲まれた島の9割は亜熱帯原生林が生い茂る。豊かな水源に恵まれ、無数の川が内陸にある山々の随所に滝を作っている。イリオモテヤマネコの郷に相応しい、ワイルドでミステリアスな自然の宝庫だ。
島の北端は爪のように伸びた半島の西に、三日月のうような弧を描く月ヶ浜がある。その浜を豊かな原生林と共に独り占めしているかのような、星野リゾート。全室が浜に面しており、潮騒と野鳥のさえずりのBGMが心地よい。
月が浜は沖縄最長の浦内川の河口に続くため、川に運ばれた細かい砂を歩くと砂がキュキュと鳴くことで知られている。夕陽で海が茜色に染まると、砂浜は金色を帯びてゆく。夜は浜に続くような近さで頭上を覆う天の川。地元は昔からこの浜を「神が留まる」という意味のドゥドマリ浜とも呼ぶことが、実感された。
酸素をたっぷり放出するというマングローブの茂る河畔で、朝のストレッチのクラス。たっぷり四肢を伸ばした後、地元の新鮮な食材が並ぶ朝食ブッフェへ。旬のピーチ・パインはとろけるような風味。2杯目のコーヒーは、ホテル裏手のジャングルにあるライブラリーで木漏れ日で、資料を手に一日のプランをたてる。
カヤック、サップ、ボートクルーズ、トレッキング、サイクリング、シュノーケリングなど島での多様なアクティビティが用意されている。亜熱帯植物と動物の宝庫である浦内川のクルーズツアー、その支流のマングローブ群生を縫うように進むカヤックは秘境の味わいたっぷり。板のような根を張る巨木は、ホビットの冒険の挿絵のよう。
カヤックでジャングルの奥に進み、細い道をトレッキングし、エメラルド色の滝つぼのもとでお弁当を広げる。頭上で木の枝が揺れるのはカンムリワシかと見上げるが姿はない。代わりに両手ほどの大きさもある、白黒のまだら文様の蝶がひどくゆっくりと優雅に目の前を横切って滝を上っていった。
日が落ちるとジャングルには別の世界が息づく。日本一小さいヤエヤマヒメボタルの群れが、漆黒の密林に金粉が撒かれたような乱舞をみせてくれる。また、7月の短い期間だが夜中に開花し、一夜で散ってしまう幻想的なサガリバナが川面を覆う。
だが、なんといってもお勧めは、イリオモテヤマネコの足跡をたどるナイト・ツアーだ。20世紀に発見された原始的なネコ類として世界的にも話題を集めたイリオモテヤマネコ。
ホテルでは毎晩「やまねこの学校」を開き、詳しくその生態を教えてくれる。国の特別天然記念物として、現在は西表島にだけ約100頭が生息するという。
島民でも実際に目にした人は少ないようだが、専門のガイドによるナイト・ツアーではかなりの確率で遭遇できるようだ。蛇や蛙だらけになる夜道を東西に走り回ること約3時間。遂にイリオモテヤマネコの好物の蛙が群れる水田で、月明かりに射るように光る二つの目に出会う。地元では昔からピカリヤーと呼ばれてきたことに納得。
日本初のエコツーリズムホテルを謳う星野リゾート 西表島ホテルは、イリオモテヤマネコの保護に始まり、島の魅力と価値を高めるネイチャーツアーに力を入れ、エコロジカルなホテル運営を進めている。地元コミニティと共にあるサステイナブルな環境経営を目指す。
ホテル内ではペットボトルを廃止するなどしているが、ゲストに不便なエコ対応は求められていない。ネイチャーツアーに参加せず、終日館内で過ごすものよし。広々した客室のデイベッドや緑に守られたプールサイドで寛ぎ、多様な館内イベントを楽しむもよし。特別なことをしなくても、このリゾートにゆったり自然体で滞在することでエコツーリズムの一端を担っていることに。
西表島はミシュラン・グリーンガイドジャポンで二つ星を獲得、島の大半が国立公園に指定され、生物多様性を誇るユネスコ自然遺産への候補地ともなっている。西表島から近い2つの離島にも星野リゾートのホテルがあり、アイランド・ホッピングをしながら異なる趣の滞在も楽しめる。
●星野リゾート 西表島ホテル TEL0570-073-022
※『Nile’s NILE』2021年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています