横浜のシンボル

文明開化のドラマとともに築かれたホテル

Text Koko Shinoda

文明開化のドラマとともに築かれたホテル

現在の「ホテルニューグランド」。
現在の「ホテルニューグランド」。

今から150年ほど前の横浜は、砂洲に半農半漁の100戸余りが暮らす集落だった。それが黒船の来航で1859年に開港を余儀なくされ、外国人居留地が設けられたことで、文明開化を運ぶ港町として変貌してゆく。

外国船が帰港するようになると、現在の山下公園のある海岸通りには、外国人を迎えるホテルが軒を連ねるようになった。1873年には英国人の経営による「グランドホテル」が開業し、横浜のシンボルと謳われるように。   

が、半世紀後には「グランドホテル」も含む横浜の町全体が関東大震災で倒壊してしまう。横浜市は住民と一体となって復興を進め、震災の瓦礫による埋め立てで山下公園を築き、その前に「ホテルニューグランド」を築いた。 

開業当時の「ホテルニューグランド」。
開業当時の「ホテルニューグランド」。

1927年の開業は、国際都市横浜再生の華々しい一歩として横浜の誇りとなった。初期のゲストとして、チャーリー・チャップリンがいるが、ダグラス・マッカーサーが少年時代に家族旅行で、また、新婚旅行でも滞在したことは余り知られていない。

「マカーサーズスイート」に置かれたデスクとイスは、ダグラス・マッカーサーが実際に使用したもの。
「マカーサーズスイート」に置かれたデスクとイスは、ダグラス・マッカーサーが実際に使用したもの。

現在、本館にある315室は「マカーサーズスイート」という客室になっているが、これは1945年に連合国最高司令官として、3度目の滞在をした時の名残りだ。当時彼が使用したデスクと椅子が今も置かれている。

海外の要人を迎える迎賓館としてのたたずまいが色濃く残された大階段。
海外の要人を迎える迎賓館としてのたたずまいが色濃く残された大階段。

海外からの要人の迎賓館としての往年のたたずまいは、優美なエントランスホールに色濃く残されており、重厚な石造りの大階段がマホガニーの角柱に支えられた壮麗なロビーラウンジに続く。

本館ザ・ロビーには重厚な雰囲気が漂う。
本館ザ・ロビーには重厚な雰囲気が漂う。

本館の一階には、カフェレストラン、バー、イタリアン、ラウンジなどの優雅な風情が漂うレストランやバーがある。このホテルの初代総料理長サリー・ワイルがそれまでの堅苦しいコース料理からアラカルトを採用するなど、のちの日本のホテルやレストラン業界に大きな足跡を残した。

「ザ・カフェ」の定番人気メニュー「シーフードドリア」は。初代総料理長が体調を崩した外国人客のため即興で考案した一品。
「ザ・カフェ」の定番人気メニュー「シーフードドリア」は。初代総料理長が体調を崩した外国人客のため即興で考案した一品。

また、ドリア、スパゲティ・ナポリタン、プリン ア ラ モードなどもここが発祥の場だ。山下公園を望むコーヒーハウス「ザ・カフェ」の家庭的な雰囲気で味わう、逸話あふれる名物料理は、味わい深い。

見事な景色を一望する客室は、全192室がオーシャンビュー。
見事な景色を一望する客室は、全192室がオーシャンビュー。

「ホテルニューグランド」は戦前の雰囲気を残す数少ない日本のホテルであるが、1991年には隣接して地上18階のタワー館を増築した。192の全客室がオーシャンビュー。最上階には結婚式に人気のスカイチャペルがある。

本格的なフランス料理を「ホテルニューグランド」ならではのアレンジで楽しめる「ル・ノルマンディ」。
本格的なフランス料理を「ホテルニューグランド」ならではのアレンジで楽しめる「ル・ノルマンディ」。

5階には横浜港のパノラマを望むパノラミックレストラン「ル・ノルマンディ」。1930年代に運航していた豪華客船ノルマンディー号のメインダイニングをモデルに造られたもの。ウッド・デッキが敷かれ、海を一望にする窓席は、船に乗っているような気分に。

客室からは山下公園の桟橋に係留されている日本郵船氷川丸も眺めることができる。
客室からは山下公園の桟橋に係留されている日本郵船氷川丸も眺めることができる。

ちょうど正面には山下公園の桟橋があり、1930年代にシアトル航路を運航していた日本郵船氷川丸が係留されている。一般開放されている船内は、どこか「ホテルニューグランド」の本館と似た古き良き時代の旅情が漂う。

ホテルの南には中華街、東には元町商店街、洋館の点在する山手地区などエキゾチックな名所が、徒歩圏にある。海外旅行が難しくなった日々に、東京から意外に近い所で、タイムトリップを兼ねた異国情緒に浸ることができた。

●ホテルニューグランド TEL945-681-1841

※『Nile’s NILE』2020年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。