星のや 第5回
滞在先は、“島時間”

石垣島からフェリーで約10分。竹富島にある星のや竹富島は、開業から丸13年の時を経て、島の自然と集落にしっくりとなじんだ姿が印象的だ。

旅人を迎え入れながら、土地の歴史と文化を未来につなげる試みを続けるあり様は、ディナーコース「島テロワール」にも貫かれている。

Text Kei Sasaki

石垣島からフェリーで約10分。竹富島にある星のや竹富島は、開業から丸13年の時を経て、島の自然と集落にしっくりとなじんだ姿が印象的だ。

旅人を迎え入れながら、土地の歴史と文化を未来につなげる試みを続けるあり様は、ディナーコース「島テロワール」にも貫かれている。

約2万坪の敷地に琉球赤瓦の木造家屋が立ち並ぶ集落の景観を再現。見晴台から、全景を眺めることができる。

「島のリゾート」を思い描いて出掛けると、俗に言うそれとは異なるさまに驚くところから旅を始めることになる。距離とともに時まで旅してきたかのような景色は、亜熱帯の鮮やかな色彩を帯びながらどこか厳か。心の中で高揚と鎮静がせめぎ合う。

「ヤギとキャビアのタルタル フーチバの香り」。ヤギ汁に使われるフーチバ(ヨモギ)のチュイルをアクセントに添えて。キャビアのリッチな塩気が、大地と海の美味をつなぐ。

星のや竹富島の開業は2012年。八重山列島の中でも古くからの信仰や生活文化が色濃く残る土地で、歴史と暮らしへの敬意を形にしながら、島の風景の一部として年月を重ねてきた。客室群は、赤瓦の屋根の建物を石垣が囲む集落の姿そのもので、ヒンプンという魔除けの低い石垣まで忠実に再現されている。建物の北側に風よけのフクギを植えるのも、島の伝統に倣った。全客室の南側に一面の窓が設けられているのは、縁起がいいとされる南風を取り込むためだという。客室に入るまでの間に、土地にまつわるいくつかの大事なことを自然に知ることができるのだ。

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    年間を通じ、24時間利用できる加温式プール。水を囲む集落の形に倣い、敷地の中心に。
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    開放的な浴場がモダンな客室「ガジョーニ(「ガジュマル」の意)」。ほか和室タイプもある。
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島特有の農事、祭礼は、珊瑚隆起島という土壌に由来している。山も川もない、痩せた土地でいかに作物を得るか。豊穣を祈願する種子取祭(タナドゥイ)は、600年の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財に指定されている。「生きる」と分かちがたく結びついた食のあり方も、星のや竹富島の滞在で体験できる島の暮らしの一端だ。種子取祭の季節にあたる秋は、祭礼にちなんだ料理を盛り込んだ「種子取祭朝食」を供する。島の伝統に根ざした酒と酒肴を、儀式の作法でいただく晩酌セットも、静かな夜のひとときを豊かに彩る。

今年6月にはダイニングをリニューアル。食体験の幅はより広がった。その核を成すのが、地域の食材と竹富島特有の調味料を組み合わせ、フレンチの技法で仕上げるディナーコース「島テロワール」。竹富島の食文化によりフォーカスした、全4皿のコースに刷新された。

コースは、八重山列島の食に欠かせないヤギの料理からスタート。低温で火入れして柔らかなタルタルにしたヤギに、コンソメのジュレと茄子のムースを重ねた一皿だ。ヤギの繊細な食感と味わいが、コンソメの力強いうまみと一体に。ワインを呼ぶ、フレンチの骨格を備えている。

「熟成牛サーロインとマグロの炭火焼 島醤油と黒糖のアクセント。種子取祭に欠かせない穀物や胡麻をあしらいに。「島テロワール」18,150円(写真のメニューは11月まで)。

イセエビと豚という、島らしい二つの食材は、芳しいパイ包み焼きに。続くメインは「熟成牛サーロインとマグロの炭火焼き」だ。温められたプレートから、醤の香りが濃厚に立ち上がり、肉と魚の赤身の味を力強く引き立てる。昔、家庭でも行われていた醤油づくりの伝統を残そうと、島内の醸造所で醸した「島醤油」が要。継承の味を、島に訪れた人々に広く伝える役割を担っている。

今秋から、若き岡野竜也料理長が厨房を率いている。まだ20代ながらフランスで学んだ経験も持ち、技術と誠実さ、自由な感性が料理からも立ち振る舞いからもあふれる。星のや竹富島の食は、ますます深く面白く、体験的価値を増していきそうだ。

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    命草(ぬちぐさ)の庭に面した東屋。爽やかな海風を感じつつくつろぐひとときもまた格別だ。
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    プールを望むメインダイニング。サンセットタイムは、藍色に染まりゆく空も美しい。
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●星のや竹富島
沖縄県八重山郡竹富町竹富1955
TEL 050-3134-8091(星のや総合予約)

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。