日本文化と歴史を味わう旅

東京・大手町高層ビル群の中にそびえる“塔の日本旅館”。星のや東京のメインダイニングで、各地の郷土料理に焦点を当てた新しいディナーコースが開始された。食欲の秋、都心にいながら日本各地の文化と食を楽しみたい。

Text Mizuki Ono

東京・大手町高層ビル群の中にそびえる“塔の日本旅館”。星のや東京のメインダイニングで、各地の郷土料理に焦点を当てた新しいディナーコースが開始された。食欲の秋、都心にいながら日本各地の文化と食を楽しみたい。

栃木県の郷土料理「しもつかれ」。野菜の端境期であり食材調達が難しかった旧暦2月の行事食を現代風にアレンジし、見た目にも華やかな一皿に生まれ変わらせた。

肌に触れる風に、どことなく涼しさを感じられるようになってきたこの頃。夏の余韻が徐々に薄れてくる季節には、秋を探す旅へと出掛けたくなる。

そこでおすすめしたいのが、国内外に展開する星のや。土地ごとの自然や文化を生かし、訪れる人を非日常へと誘うラグジュアリーホテルブランドだ。「その瞬間の特等席へ。」というコンセプトのもと、一瞬一瞬が特別な体験となるような空間ともてなしが、心に残る滞在をかなえてくれる。

まず紹介したいのは、星のや東京。日本屈指のビジネス街、東京・大手町に位置し、都心にありながら“日本旅館”を楽しむことができる特別な宿である。地下2階、地上17階という“塔”のような建物の中にあるのは、畳敷きの玄関やお茶の間ラウンジなど、日本文化を身近に体験できる空間だ。さらにこの宿では、日本各地からさまざまな食材が集まってくる東京だからこそ実現できる「美食旅」を提供している。

地下1階にあるメインダイニングでは、9月から新ディナーコースが始まった。コースの主役となるのは、“日本の家庭料理”。岡亮佑総料理長の「その土地でしか創ることができない料理を追求する」という信条のもと、ライフスタイルの現代化によって姿を消し、今ではほとんど作られなくなった各地の郷土料理を、独創的な感性と多様な料理法で再構築している。

例えば、栃木を中心に北関東で親しまれた「しもつかれ」をご存じだろうか。正月に食べた塩引き鮭(さけ)の残りや、節分に煎った大豆、大根や人参(にんじん)、酒粕(さけかす)、油揚げなどを煮て家中の無病息災を祈る旧暦2月の伝統的な行事食……なのだが、岡総料理長は大胆アレンジ。身から骨まで余すことなく使用した鮭に、味噌(みそ)のタルタル、酒粕で風味づけされたチーズソースを合わせ、華やかないくらソースで全体をまとめる。フレンチの技法を融合させ、発酵食ならではのうまみと香り、奥行きのある味わいを引き出した。

他にも、兵庫県の鍋料理「鍛冶屋(かじや)鍋」をテリーヌに昇華させた一品や、最上川などで取れるモクズガニを丸ごとすりつぶして作る山形県の「ガニ汁」をリゾット風に炊き上げ、白身魚に添えた一皿など、趣向を凝らした品々が並ぶ。

また、今年3月に開業した日本旅館の江戸前鮨(すし)「鮨大手門」も見逃せない。メインダイニングの一角に、カウンター全8席のみの店は、伝統的な江戸前鮨の技法を軸に、日本各地の鮨文化を取り入れた握りも用意。多彩な味わいをじっくりと楽しむことができる。

おいしい食事の後は、温泉で温まりたい。最上階の大浴場には、地下1500mからくみ上げた大手町温泉の湯が。現在は高層ビルが立ち並ぶ大手町だが、かつてこのあたりは海。太古の海水を含む地層からくまれるミネラル豊富な天然温泉が、心身を癒やしてくれる。

遠くへ行かなくても、深く満ち足りた時間は味わえる。東京という土地に、日本の美しさを息づかせる星のや東京。伝統的な和のしきたりを重んじながら、現代に合わせて独自の進化を遂げるこの宿は、日本文化と歴史の魅力を改めて感じさせてくれる場所なのだ。

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    「麻の葉くずし」は客室の窓からも堪能できる。窓から差す光が描く影の模様が美しい。
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    塔のようにそびえる建物の外壁には、繊細で立体的な江戸小紋「麻の葉くずし」の装飾が。
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    山形県の郷土料理「ガニ汁」は、モクズガニを丸ごとすりつぶして作る料理。この濃厚なカニのうまみを濃縮した出汁(だし)をリゾットにした。旬を迎える白身魚と共に。
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●星のや東京
東京都千代田区大手町1-9-1

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。