細胞の健康維持に欠かせないオートファジー

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    オートファジーの役割1 細胞の新陳代謝
    車の部品を常に入れ替えていれば新車の状態が保てるように、細胞内ではオートファジーにより、
    常にメンテナンスが行われている。
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    オートファジーの低下と寿命
    加齢とともにオートファジーは低下し、これを活性化すると寿命が延びることが動物実験で明らかになっている。
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    オートファジーの役割2 有害物資の除去
    オートファジーは、ウイルスなどの病原体やアルツハイマー病などの原因となるタンパク質の塊など、有害物を除去する役割がある。
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オートファジーを低下させる要因
加齢によるオートファジーの低下は、どのような仕組みで起こっているのだろうか。その一つの鍵となるのが、オートファジーのブレーキ役である「ルビコン」だ。

オートファジーは、細胞の秩序維持に欠かせないが、やりすぎると細胞が危険にさらされる。そのため、ルビコンがオートファジーを抑え、適切なバランスを保っていると考えられている。一方、逆にルビコンが増えすぎるとオートファジーは低下してしまう。ルビコンは、加齢とともに増えるため、加齢によるオートファジーの低下と関連していると見られている。

それでは、ルビコンをなくすと何が起きるのか。遺伝子操作でルビコンをなくした動物は、高齢でもオートファジーが保たれ、寿命が1・2倍延び、老化に伴う病気になりにくいことが明らかになっている。

オートファジー維持への挑戦
こうしたことから、吉森先生のチームは、人為的にオートファジーを維持して老化を抑えることを目指し、19年に、ベンチャー企業「オートファジーゴー」を立ち上げた。

従来、薬の開発は、特定の病気を対象に行われてきたが、オートファジーの活性を維持する医薬品が開発されると、老化を抑制するため、それ単体でさまざまな病気を防ぐ可能性を秘めている。また、対症療法的に使用するのではなく、予防的に用いることで、病気のない状態、「未病」の維持へ期待が寄せられている。

現在、オートファジーゴーでは、ルビコンを抑制する薬に加え、ルビコン以外の経路でオートファジーの活性を促進する薬の2種類を開発中だ。

オートファジーを維持するサプリ
同時に、サプリメントの開発も行っている。その材料となる候補を探すため、吉森先生らは、沖縄から北海道まで昔から体に良いと言われている食品を500種類以上調査した。

その結果、徳島県で1000年以上飲み続けられてきた乳酸発酵茶「阿波番茶」にオートファジーを活性化する効果が見られた。線虫を使った実験では、阿波番茶の濃縮エキスを与えた個体で寿命が1・14倍延び、ルビコンの抑制に匹敵する効果が得られた。また、他のチームによる動物実験では、阿波番茶が血圧上昇を抑制。同茶が飲用されている地域の高齢者死亡率が全国平均と比較して低いことも明らかになっている。

オートファジーゴーでは、阿波番茶の濃縮エキスのサプリメント「阿波晩茶オートファジー100™」を展開し、医師を通じてクリニックでの販売を開始。今後、販路を広げていく。

オートファジーと生活習慣
吉森先生によると、「オートファジーを活性化する生活習慣は、基本的には昔から体に良いと言われていること」。有酸素運動や十分な睡眠、脂っこくない食事、睡眠前に食べないなど、目新しいものはない。

一方、これらは全て、オートファジーの観点から説明ができる。例えば、有酸素運動中や睡眠中はオートファジーが上がり、脂っこい料理や食後はオートファジーが下がるのだ。最近話題になったコールドプランジや断食などのカロリー摂取制限もオートファジーを活性化する。

吉森先生は、毎週末トレイルランを楽しみ、一日3食食べる代わりに、全体の摂取カロリーを少し制限するようにしているという。「オートファジーを活性化する目的は、長い間健康に楽しく暮らすため。そのためには、楽しみながら継続できるやり方を見つけることが大事」だという。

健康長寿の実現に向けて
老化の指標としてのオートファジーの活用にも注目が集まっている。オートファジーの活性レベルには個人や細胞による差はあるものの、「正常値」が存在すると先生は確信し、現在、これを特定する作業を進めている。将来的には、オートファジーが健康診断の検査項目の一つとなり日頃の生活習慣の見直しや予防的検診への関心が高まることで、健康寿命延長に貢献することが期待される。

吉森先生のチームは、オートファジーに関する知識を活用し、米国のXプライズ財団による、老化抑制に向けた賞金コンテストに挑戦中だ。同コンテストには世界58カ国600以上のチームが参加し、吉森先生らを含め、日本から6チームが準決勝に勝ち進んでいる。「日本の研究のレベルは高い。これを今後社会に還元していきたい」と語ってくれた。

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    オートファジーは健康に重要
    オートファジーがうまく機能しなくなると、細胞の秩序が維持できなくなり、老化が進み、病気になりやすくなる。
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    吉森先生が立ち上げたベンチャー企業のオートファジーゴーが発売する、阿波番茶を濃縮したサプリメント「阿波晩茶オートファジー100™」。
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    加齢による運動量の低下
    ルビコンは加齢に伴い増加する。ルビコンをなくすと、老齢の線虫で運動量が増加した。
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※『Nile’s NILE』2025年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。