「だるい、疲れやすい」をもたらす筋出力抑制の改善
谷崎 体を動かすことは、神経機能を活性化することにもつながります。
早川 私が今、取り組んでいるテーマに筋出力抑制という現象があります。筋肉の量はあるのに、それに見合った筋力が発揮できていないということが、運動不足の人や慢性疼痛疾患がある人によくあるのです。本人は全力を出そうとしていても、脊柱の柔軟性がないために、筋出力が低下してしまう。そのために、体重は変わっていないのに体が重く感じる、だるくて疲れやすいということになるのです。これを改善するため、脊柱の柔軟性を高め、筋出力をその人の筋肉量に見合った基準値まで戻すということを大事にしています。
谷崎 年齢とともに歩くことや立ち上がりが億おっ劫くうになるサルコペニアや、健康な状態と要介護状態の中間を指すフレイルという状態が一般的に認知されてきていますが、これらにも筋肉や神経の性質の変化が影響するといわれていますよね。使わないことで機能が衰えるのは人間の体の原理原則といえるので、日常的に運動することで筋肉と神経を活性化したほうがいいことは間違いないでしょう。運動することで記憶力が向上するなど、脳の機能も活性化されることがわかっています。
五味原 運動によって、姿勢の改善が得られることも大きいと思います。姿勢が改善されることで、内分泌や自律神経にも良い影響がもたらされます。呼吸と運動には密接な関係がありますので、運動することでまず息を正しく吐くことができるようになり、それによって今度は吸うことができるようになっていく、呼吸改善効果も期待できます。運動をすることで、付随的にいろんな機能が回復し、全身の健康に波及してくるというのは、運動を続ける大きな理由になるでしょうね。
運動の目的を知る
谷崎 厚生労働省の資料でも、運動の効用として動脈硬化や体脂肪、血圧、糖尿病、骨粗鬆症、悪性新生物の予防、認知機能や睡眠障害、ストレスの改善など、16個の項目を挙げています。これを見ても運動したほうがいいことは明らかですが、意外と自分の体のことを知らない人が多いように思います。日本は国民皆保険で医療制度が整っていることが、自分の体を自分で守るという意識を薄めてしまっているのかもしれません。自分の体を知り、理解を深めることが、健康寿命を延ばす手がかりになるのではないかな、と思います。
早川 私は仕事で医療機関とフィットネスの両方に関わっていますが、医療機関の患者さんのほうが、体への興味が薄いように感じます。「先生にすべてお任せします」という受動的な方が多い印象ですね。その点、フィットネスに来るお客様は、「何が原因でこうなっているのか知りたい」「どうしたら良くなるか教えてほしい」という能動的な方が多く、かなり気質が違います。
五味原 能動的に行動することは大切ですよね。私は日々の指導の中で、なぜ筋トレをするのかということを必ず問いかけるようにしています。運動の先にある目的をどれだけ見据えられているかによって、運動に打ち込める度合が変わるからです。「孫ができるから抱っこしたい」「笑顔で日々を過ごしたい」など、目的はさまざまですが、「だから運動することが自分にとって必要だ」と認識できていることが重要です。