
ライター・編集者の笹間聖子さんによる連載「外食ビジネスのハテナ特捜最前線」。第9回は、すかいらーくグループが導入する猫型配膳ロボットと「人とロボットの共存」戦略に迫ります。
すかいらーくグループでは現在、猫型配膳ロボット「ベラボット」を約2100店舗に約3000台導入。1〜2台、多い店舗では3台が稼働しています。厨房からテーブルへの配膳を主に担当し、しゃぶしゃぶ店「しゃぶ葉」では下膳も担当。最大40kg(各棚10kg×4段)の運搬が可能で、1日あたり平均4km、最大22kmを走行することもあります。
導入により、スタッフの歩行数は42%減少し、腕の負担も軽減。ただの省人化ではなく、「人とロボットの協働」によって、接客品質の向上や従業員教育に時間を割く体制が整いました。ピークタイムに人的リソースを集中し、収益性を維持しつつ人件費率を下げるモデルを実現しています。
ロボット導入の意外な効果として、シニア採用が急増。2021年比で65歳以上は約2倍、70歳以上は3.6倍に。体力負担の大きい配膳をロボットが担うことで、高齢者でも働きやすい環境が生まれました。また、配膳を任せることでスタッフは対人業務に集中でき、シニアの「人間力」が生かされています。
障害者や外国人スタッフの採用にも好影響があり、「操作しやすく優しいオペレーション」が、あらゆる従業員にとって働きやすい環境を作り出しています。新人の業務習得も早くなり、多様な人材の活躍を後押ししています。
成功の裏には、徹底した運用改善があります。17人の元店長インストラクターが店舗を巡回し、最適な走行ルートや停止位置を検討。毎日の走行距離や作業回数をデータ分析し、店舗ごとに調整。例えば、「ロボットが来たと気づかない」という声を受け、「到着通知機能」が追加されるなど、改良が重ねられています。
ロボットはスタッフからも「とんかつ」「ぽち」など名前をつけられ、親しみを持って接されています。マルチモーダルAIを搭載し、状況に応じた感情表現や30種以上のセリフでコミュニケーションも可能。「今日も一緒に頑張ろうニャ〜」など、働く仲間として受け入れられているのです。
顧客にとっても癒しの存在で、子どもからシニアまで幅広く支持されています。季節ごとに衣装が変わり、リピーターの楽しみにも。DXと人への投資で従業員の能力を高め、付加価値を生む経営がすかいらーくの基本方針。今後もロボットの進化に応じて機能拡充を図る予定です。
この「人とロボットの共存」モデルは、単なる省人化ではなく、人間にしかできない業務への集中を可能にする新しいワークスタイルの一例。シニアや障害者、外国人など多様な人材の活躍を促す事例として、今後の産業にとって多くの示唆を与えています。