
1. 悪玉コレステロール(LDL)と遺伝的要因
肥満や脂っこい食事が悪玉コレステロールを高くすると考える方が多いですが、実は悪玉コレステロール値は遺伝的要素に大きく影響を受けています。体重を減らしても悪玉コレステロール値が下がらないケースが多く、痩せている方でも悪玉コレステロールが高い場合があります。両親のどちらかが悪玉コレステロール値が高いと、その子供も高くなる傾向があります。
特に「家族性高コレステロール血症」は、LDLコレステロールを細胞内に取り込む役割を持つLDL受容体の遺伝子に異常があることが原因です。この疾患では血中コレステロール値が160mg/dL以上になると注意が必要です。現在では、コレステロール値を下げる薬が開発されており、効果的に管理できるようになっていますが、かつてはコレステロール値が500〜1000mg/dLに達し、20歳代で心筋梗塞を発症して亡くなるケースもありました。
コレステロールは体内に蓄積し、心臓病の原因となります。全身の血管にコレステロールが60gほど蓄積すると心臓病が発症しやすくなるとされており、遺伝子異常を両親から受け継いでいる場合は12.5歳で、片方の遺伝子に異常がある場合は35歳でこの量に到達するとされています。このように、悪玉コレステロールが蓄積することは「コレステロール負債」と呼ばれ、放置すると心血管疾患を引き起こすリスクが高くなります。
遺伝的要因が強いことから、500人に1人が家族性高コレステロール血症に該当するとされています。生活習慣の改善だけでは管理が難しいため、早期に薬を使用することが推奨されます。
2. 高尿酸血症と痛風
高尿酸血症や痛風も遺伝的な要因が大きく関係しています。尿酸は核酸の主成分であるプリン体が代謝されて作られます。プリン体はレバー類(210〜320mg/100g)、白子(300mg/100g)、イワシやカツオ(210〜270mg/100g)などに多く含まれています。1日のプリン体摂取量は400mg以下が推奨されていますが、ビール350mLには約10mg含まれており、アルコール自体が尿酸の排泄を抑えるため、飲酒習慣がある人は痛風のリスクが2倍になるとされています。
ほとんどの動物は尿酸を分解できますが、人間は尿酸を分解できないため、尿や腸管から排泄します。しかし、腎機能が低下すると尿酸の排泄がうまくいかず、体内に蓄積してしまいます。また、肥満やメタボリックシンドロームも尿酸値を上昇させる要因となります。これは、肥満により腎臓や腸管で尿酸を排泄する通路が減少するためです。
尿酸が体内に蓄積すると結晶化し、痛風発作や腎臓結石を引き起こします。血中尿酸濃度が7mg/dLを超えると要注意であり、9mg/dLを超えると発作が起きやすくなります。尿酸は腎臓に蓄積して腎機能を低下させ、腎臓機能の低下はさらに尿酸値を上げるという悪循環を引き起こします。
痛風発作を防ぐためには、プリン体の多い食品を避け、尿をアルカリ化する食品(海藻、野菜、イモ類)を摂取し、肥満を解消することが有効です。しかし、生活習慣の改善だけでは管理が難しいため、薬による治療も重要です。
3. 慢性腎臓病(CKD)
腎機能が60%以下に低下すると「慢性腎臓病(CKD)」と診断されます。日本には約1300万人の慢性腎臓病患者が存在し、放置すると心臓病や脳血管疾患を引き起こすリスクがあります。
慢性腎臓病の原因として、糖尿病や高血圧が挙げられますが、高尿酸血症や肥満も影響しています。また、腎硬化症(腎臓に線維が溜まって萎縮する病態)が増えており、これは高血圧や高尿酸血症に関連しています。慢性腎臓病は「万病のもと」とも言われ、全身の健康に悪影響を及ぼします。
高尿酸血症の管理には、プリン体の摂取制限や肥満対策が重要ですが、生活習慣の改善だけでは限界があるため、早めに薬を使用することが推奨されています。
4. 脂肪肝(NAFLD)と代謝異常関連脂肪性肝炎(MAFLD)
日本には約2000万人の脂肪肝患者がいると推定されています。脂肪肝は肝細胞の5%以上に脂肪が蓄積した状態で、原因は過剰な飲酒や栄養過多が主です。
飲酒を続けると約30〜40%が肝硬変に進行し、そのうち1〜3割が肝臓がんを発症します。また、肥満や糖尿病などが原因で発症する「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」も増加しています。さらに、炎症が進行した「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」では30〜50%が肝硬変に進行する可能性があります。
最近では、飲酒の有無にかかわらず、肥満や代謝異常による「代謝異常関連脂肪性肝炎(MAFLD)」が注目されています。
5. 認知症
日本では2025年に認知症患者が700万人に達すると予測されています。65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症すると見込まれています。
特に「アルツハイマー型認知症」は日本人の認知症患者の60〜70%を占めており、記憶障害や見当識障害が進行します。原因は神経細胞の老化と、それに伴うアミロイドベータやタウの蓄積であると考えられています。
認知症の予防には、運動や健康的な食生活が重要とされています。
まとめ:
これらの「負債病」は遺伝的な要因が強く、生活習慣の改善だけでは管理が難しいため、早期の治療や薬の使用が効果的です。
情報元:PRESIDENTオンライン
https://president.jp/articles/-/92811