ラルパージュ─フランス・アルプス地方の方言で“夏の高原の牧草地”。涼しく広々としていて過ごしやすい場所。そんなアルプスに似て爽やかな風が吹き込む蓼科に、今年3月にオープンしたオーベルジュがある。「ホテル ドゥ ラルパージュ」。実業家の父とフランス文学者の母を持ち、フランスに縁深いオーナーの美学が詰まったこのオーベルジュのテーマは「カシミアの手触りの上質な日常」。わざわざどこかに出かけずとも、ただ時を過ごすだけで心地よい空間。オーナーがフランスで体験した「日常」を、この蓼科でそのまま味わうことができるのだという。
建物に入るとまず出迎えてくれるのが、天井高約8mの開放的なロビーだ。アーチ状になったガラス張りの天井から暖かな日が差し込み、室内を明るく照らしている。「ウィンターガーデン」と呼ばれるこの空間は、ガラス屋根をかけた18世紀の屋敷の中庭のイメージ。鉄とガラスの屋根は19世紀の象徴だ。このようにホテル内には、主に18〜20世紀フランスの建築様式や美術が多く用いられ、歩くだけでまるで時空旅行をした気分になれる。
客室は全部で12室。高い天井まで届く縦長窓はヨーロッパでよく見られる内開きで、ドイツのメーカーの特注品。ホテル内の調度品はほぼすべてフランスもしくはヨーロッパから取り寄せたもので統一されている。100年以上前のアンティーク品を修繕した家具も少なくないというから驚きだ。限られた人数しか宿泊できないコンパクトなホテルだからこその隙のなさがうかがえる。
おなかがすいたらレストランで自慢の料理を─と、その前に、フランスの食文化について知っておきたい。フランスでは食事の前に胃を刺激し、食欲を増進させるために食前酒を飲む習慣があり、本ホテルでももちろんその文化を楽しめる。レストランに隣接するバーには、豊富な種類のお酒を用意。同行者と会話を楽しむもよし、食事の準備をしているシェフやソムリエに料理やワインについてリクエストするもよし。レストランで提供される食事は基本コース仕立てだが、体調や好みに応じて量やメニューを調整することもできる。連泊のゲストが毎日食べても胃がもたれないよう、肉はあえて赤身を使用するなどの工夫も。まさに「毎日食べられるご馳走」。小規模なホテルだからこそ、ワンオブゼムではなく唯一のゲストとしての特別なおもてなしがある。
また、料理の後、なんといっても欠かせないのが“食後の3C”。シガー、コニャック、ショコラ。この三つをお供に食後をくつろぐのだ。バーに併設されているシガールームで煙草をくゆらせ、強めのお酒で食後の余韻を楽しむ。ショコラをつまみつつおしゃべりに興じる。フランスの文化を体験しながら、上質な時間を過ごすことができるのだ。
日常の延長としての旅、生活の延長としてのホテルステイ。一度泊まれば、この蓼科のフランスに「また帰ってきたい」と思うに違いない。
●ホテル ドゥ ラルパージュ
TEL 0266-67-2001
※『Nile’s NILE』2024年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています