ジャズと聴き手をつなぐプロの気概

1967年、ジャズ喫茶がひしめく新宿からはやや離れた四谷の地で開業、都内に現存するジャズ喫茶の中で5番目に古く、“老舗”の一つに数えられる、いーぐる。店主でジャズ評論家としても知られる後藤雅洋さんは「開店当時、全くジャズの素人だった」と意外な言葉を口にする。その成り立ちから運営戦略まで、他店とは一線を画すユニークな魅力を解き明かす。

Photo Masahiro Goda  Text Yasushi Matsuami

1967年、ジャズ喫茶がひしめく新宿からはやや離れた四谷の地で開業、都内に現存するジャズ喫茶の中で5番目に古く、“老舗”の一つに数えられる、いーぐる。店主でジャズ評論家としても知られる後藤雅洋さんは「開店当時、全くジャズの素人だった」と意外な言葉を口にする。その成り立ちから運営戦略まで、他店とは一線を画すユニークな魅力を解き明かす。

ジャズ特集、ジャズと聴き手をつなぐプロの気概、ジャズ喫茶いーぐる
後藤雅洋 ごとう・まさひろ
1947年、東京都生まれ。慶應義塾大学2年のとき、ジャズ喫茶いーぐるを開業。ジャズ評論家として約30冊の単著を上梓しているほか、多数の共著、CD付きのジャズマガジンシリーズ計118巻の監修なども手掛けている。いーぐるで流れている選曲をそのまま届けるUSENの番組「ジャズ喫茶いーぐる」は、20年以上継続中。週末には店内で「いーぐる連続講演」も行い、ジャズ関連の情報発信、啓蒙活動にも取り組んでいる。監修を担当した『マンガで学ぶジャズ教養』(扶桑社/漫画・飛鳥幸子)を昨年末に刊行。

「好きが高じてではなく、ジャズって何だろうという好奇心から始めたのがよかったんでしょう」

店主・後藤雅洋氏はそう述懐する。学生時代、父親が経営する喫茶「いーぐる」の地下のバーで学友たちと夜な夜なパーティー三昧。すると「遊んでいるなら、この店でもやったらどうだ」と言われ、流行のジャズ喫茶開業がひらめいた。しかしジャズは素人同然。詳しい同級生に相談を持ちかけ、ジャズアルバム400枚とオーディオ一式を調達。既存のジャズ喫茶と差別化を図るべく、ボーカルとピアノトリオに特化すると、これが評判を呼び満席の人気となる。

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11:00から18:00までは、会話禁止のカフェタイム(土曜12:00開店・日曜祝日休み)。18:00から閉店の23:20までは、ワインやウイスキーを片手に語り合いつつ、自家製チリビーンズやキッシュも味わえるジャズバーに変身する。

「開店から数年経つと使命感というのかな。ジャズ喫茶とは、ジャズという音楽と、ジャズを聴きたい人たちをつなぐ役割。僕にも好きなジャズもあれば、自分の好きな音もある。でも、それをやっていいのはアマチュア。古いオーセンティックなジャズにも現代ジャズにも対応するのがプロ」

この信念の下、アコースティックでもエレクトリックでも、LPでもCDでも、どのリスニングポイントでも差が出ないよう音響システムをチューニング。加えて長い年月の中で練り上げた約2時間を1サイクルとする1000以上もの選曲パターンも用意する。

現在も午後6時まで会話は禁止。しかしその環境を好む女性客やテレワーカーがコロナ禍以降増え、「かかっている曲のジャケットをスマホで撮っていく客も多い」。そんな状況にいささか驚きつつも、このジャズ喫茶のプロは、我が意を得たりと思っている風でもある。

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アナログプレーヤーはヤマハGT-2000、CDプレーヤーはアキュフェーズDP-
570。プリアンプのアキュフェーズC280Vからパワーアンプのマーク・レヴィ
ンソン23.5Lを経て、JBL4343マークⅡが、心地いいプロの音を響かせる。
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    店主の後藤雅洋氏は、88年に上梓した『ジャズ・オブ・パラダイス』(JICC出版局)を皮切りに数多くの著書や、CD付きマガジンの監修を手掛け、ジャズ評論家としても知られる。
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    かかっている曲のジャケットをディスプレーするのは、昔ながらのジャズ喫茶の流儀。気になった曲があると、ジャケットをチェックし、スマホで撮っていく客も増えたという。
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    新宿通りから地下の店内へと続く階段の壁面には、ジャズ関連のポスターが多数貼られ、ジャズの世界へといざなう。
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    開店当初LP400枚でスタート。現在はレコード約4000枚、CD約8000枚にものぼる。店内には、自身の著作のほかジャズ関連の書籍、雑誌も多数そろう。
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●ジャズ喫茶いーぐる
東京都新宿区四谷1-8
ホリナカビルB1F 
TEL 03-3357-9857 
www.jazz-eagle.com


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※『Nile’s NILE』2024年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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