「好きが高じてではなく、ジャズって何だろうという好奇心から始めたのがよかったんでしょう」
店主・後藤雅洋氏はそう述懐する。学生時代、父親が経営する喫茶「いーぐる」の地下のバーで学友たちと夜な夜なパーティー三昧。すると「遊んでいるなら、この店でもやったらどうだ」と言われ、流行のジャズ喫茶開業がひらめいた。しかしジャズは素人同然。詳しい同級生に相談を持ちかけ、ジャズアルバム400枚とオーディオ一式を調達。既存のジャズ喫茶と差別化を図るべく、ボーカルとピアノトリオに特化すると、これが評判を呼び満席の人気となる。
「開店から数年経つと使命感というのかな。ジャズ喫茶とは、ジャズという音楽と、ジャズを聴きたい人たちをつなぐ役割。僕にも好きなジャズもあれば、自分の好きな音もある。でも、それをやっていいのはアマチュア。古いオーセンティックなジャズにも現代ジャズにも対応するのがプロ」
この信念の下、アコースティックでもエレクトリックでも、LPでもCDでも、どのリスニングポイントでも差が出ないよう音響システムをチューニング。加えて長い年月の中で練り上げた約2時間を1サイクルとする1000以上もの選曲パターンも用意する。
現在も午後6時まで会話は禁止。しかしその環境を好む女性客やテレワーカーがコロナ禍以降増え、「かかっている曲のジャケットをスマホで撮っていく客も多い」。そんな状況にいささか驚きつつも、このジャズ喫茶のプロは、我が意を得たりと思っている風でもある。
●ジャズ喫茶いーぐる
東京都新宿区四谷1-8
ホリナカビルB1F
TEL 03-3357-9857
www.jazz-eagle.com
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※『Nile’s NILE』2024年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています