紺碧(こんぺき)の海が広がるヨーロッパ有数のリゾート・アドリア海。その海岸線はわずか46.6キロメートルながら変化に富んだ景色を見せるスロベニアに、ヨーロッパの人たちを魅了するワインの産地があるのをご存知だろうか。
産地の一つ、ゴリシュカ・ブルダは、穏やかな海洋性気候とアドリア海から流れ込む暖かい空気、そしてアルプス山脈から吹く冷たい風が混ざり合い、葡萄(ぶどう)栽培に適した土地。スロベニアでは紀元前よりワイン造りが行われてきた。イタリア・トスカーナ地方を思わせる丘陵地で、古くから葡萄栽培に取り組んできたワイナリーが造りだすのは「マーレ・サント」という名のスパークリングワイン。アドリア海の水深20メートルで、波に優しく揺られながら熟成させて出来上がった唯一無二のワインである。
沈没船から引き揚げられたシャンパーニュが、100年の時を経てもおいしく飲むことができたというエピソードがあるが、スロベニアにはワインを海や川に沈め、保存する風習があった。ときにはそのまま忘れられてしまったワインもあり、季節が変わって引き揚げるとその味は素晴らしいものに変化していたという。
この地域で語り継がれてきた“忘れ去られたワイン”を再現したのが、マーレ・サントである。海に沈めるときの深度や海流の影響などを調査し、品質を高めるためにボトルを改良。葡萄栽培やワイン造りも、海底熟成に適した形に改良していったという。
実は、海中での熟成にはワインセラーにはない魅力がいくつかある。大きなポイントは水深20メートルに沈めること。これより深くても浅くてもダメで、アドリア海での海底熟成にとって大切な条件がそろうのが20メートルだという。光が届かないため、年間を通して温度が変わらず、酸化のリスクもほとんどない。
さらに、この深さの水圧により、ボトル内圧のストレスが和らぐという利点もある。また、海流により常に揺れている状態にあるのも好影響を与えているらしい。こうした環境のおかげもあり、フレッシュさを保ちながら、角が取れたまろやかな味わいになる。