「阪神・阪急線から谷町線に抜ける地下道にある食堂で、豪華なかき氷を見つけたんです。氷クリーム宇治金時白玉添え! 氷の上に色々とかけたり盛ったり、まさにコテコテの上方文化ですよね。逆に当時の関東ではシロップを先に入れ、上に氷を注ぐのが主流でしたから、シンプルな江戸前文化が表れています」
さて、ここからが文芸評論家の真骨頂。世阿弥を巻き込んだ独自の“かき氷史観”を展開する。
「かき氷が登場する最古の文献という通説がある枕草子。その『削り氷に甘葛入れて新しき鋺に入れたる』という表現から、清少納言はおそらく削った氷にアマチャヅルからとった甘味を“かけて”、それを金属の器に入れて食べたのでしょう。清少納言が描いているのは、今の上方文化に直接つながる文化なんです。
さらにおもしろいのは、清少納言のこのかき氷がなんと世阿弥の晩年の著作に登場すること。弟子との問答の中で、『能の美とは何ですか』と問われた世阿弥は、『冷えた美だ』『寂びた美だ』『冷え寂びた美だ』などと答えるも、その度に『どういうこと?』と突っ込まれ、ついにこう答えるのです。
『新雪を白金鋺に盛りて、そっと出したる美だ』
これを読み、私は思わず膝を打ちました。『世阿弥さん、それ、枕草子ですね』と“新説”を開陳してくれた多岐さん。
最後に「能の専門家に確かめたことはございません」とニヤリ。往年の人気講義を彷彿とさせるよう。「いとをかし」のひとときだった。
多岐祐介 たき・ゆうすけ
1949年、新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経て、大学で教壇に立つ。文芸評論家としての講演会も多数出演。著書に『批評果つる地平 現代作家論』『文学の旧街道 作家論』など。