文明開化が急がれていた明治5(1872)年に太陽暦が採用されると、日本でも時計が徐々に普及し始める。そんな中、明治14(1881)年に服部金太郎は21歳の若さで服部時計店を創業する。舶来の時計の販売と修理で評価を高めながら、自らの手で時計を製造する夢を抱き、明治25(1892)年、念願の時計製造会社、精工舎を設立し、初となる自社製掛け時計を発売する。
2022年は、それから130周年の節目に当たる。これを機に、セイコーグループ内でクロック製造を手掛けるセイコータイムクリエーションは、完全自社設計・製造の機械式掛け時計ムーブメントの復活プロジェクトを進めてきた。
1960年代末、セイコーは世界にさきがけてクオーツ時計を開発し、時計界に革命を起こした。以降、セイコーは、ウオッチ、クロックともにクオーツ式へのシフトを進めていく。近年になってセイコーブランドの機械式腕時計は数多く登場し支持を集めているが、自社製機械式掛け時計の製造は特別なモデルを除き、約半世紀もの間、封印されたままだった。しかし技術継承の必要性を見直し、現役スタッフとOB技術者とがノウハウと経験を持ち寄り、約50年ぶりに自社設計・製造の掛け時計用ムーブメントを完成させる。この記念碑的な機械を搭載し、「世代を超えて代々受け継がれる環境にも優しい時計」というコンセプトの下に開発されたのが、デコール・セイコー「息吹」である。
鍵でゼンマイを巻き上げると、振り子が約1.3秒周期で動き出し、カチカチと心地よい音を響かせながら、ゆったりと時を刻む。オフホワイトの文字板に配されたユニバーサルデザインフォントのアワーマーカーは、二度重ねによる厚塗り印刷によって、自然な存在感を主張。時分針は、明治時代のものを元に、指先で回しやすい先端形状に仕上げられた。水平を取るために振り子の下端奥に取り付けた録見飾り板には、創業当時のシンボルである「丸角Sマーク」もあしらわれている。
外装の木枠は、背の部分が大きく弧を描く形状を採用した。ウォルナットの温かみのある質感と相まって、落ち着きがありながら、洗練されたモダンな印象を醸し出す。天童木工がこれを手がけた。1940年の創業以来、薄手の木材を積層し、曲げて成形するプライウッド家具のスペシャリストとして国内外で高く評価され、日本のインダストリアルデザインのパイオニア的存在である柳宗理や、丹下健三、黒川紀章らのアーキテクトとのコラボレーションでも知られている。あえて無垢(むく)材を使わず、成形合板製としたのには、美しい外観の実現だけでなく、木材の無駄を排するサステナブルな配慮があった点も特筆したい。
端正で飽きがこず、クラシックにしてモダンなたたずまい。そこに秘めた掛け時計初号機へのリスペクトとサステナブルな思い。自宅リビングで、半世紀の眠りから覚めた時の〝息吹〞を、心ゆくまで味わいたい。
●セイコータイムクリエーション
TEL 0120-315-474
※『Nile’s NILE』2025年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています