2025年 世界のベストレストラン50

Text Hiroko Komatsu
2025年 世界のベストレストラン50

世界のガストロノミーの潮流を左右する「世界のベストレストラン50」(以下ベスト50)のアワードが、去る6月19日にイタリア・トリノで開催された。トリノはミラノに次ぐ第二の工業都市で、豊かなサヴォイ公国の遺産である王宮群により彩られた美しい街並みを誇る。会場となったのは「リンゴット・フィエラ」というコンベンションセンターで、元フィアット社の工場を、イタリア屈指の建築家レンゾ・ピアノが改築したものだ。そのモダンな雰囲気はガストロノミー界の今を評するにふさわしい舞台だった。シェフやメディアなど、1200人が集まり、賞の行方を見守った。

さて、今年の1位は、ペルー・リマの「Maido」が王座に輝いた。ペルー料理の一種である日系料理をベースにしたイノベーティブ料理を供する。この10年ほど、10位内外を死守し、昨年の5位からトップへ。大方の予想が昨年2位の、スペイン・バスク地方の「エチェバリ」だっただけに、大きな驚きが走った。シェフのツムラ・ミツハル氏は「私たちの夢は賞をとることではなく、皆を幸せにすること」とよろこびを語った。私も8年前に一度だけうかがったが、大変に食べやすい優しい味だったことが印象に残っている。そんな親しみやすさが多くの票を集めたのだろう。2位は前述の通り「エチェバリ」、3位がメキシコ「キントル」、4位がスペイン「ディヴェルソ」、5位にデンマークの「アルケミスト」が続く。こうして上位の入賞をみると、中南米の強さが際立つ。

日本勢へ目を移そう。最高位が「セザン」の7位。ダニエル・カルバートシェフは昨年の15位からの躍進。過去、日本の最高位となった。繊細にしてエレガントな料理を世界が認めたと言えよう。続いて「NARISAWA」の21位。昨年の56位からの返り咲きはうれしい限りだ。長年、ベスト50の中で安定した地位を保ってきた、日本勢を牽引してきた名店である。続いて36位に「フロリレージュ」の川手寛康シェフ。この5年間安定的にランクインし、世界のフロリレージュの名をしっかりと残している。続いて66位からジャンプアップして、44位に「ラシーム」の高田裕介シェフ。大阪のハンデをはねのけて、世界が認めた50位以内は素晴らしい。

100位圏内には、日本料理の「傳」が53位。中国料理の「茶禅華」が77位と健闘を見せている。そしてもう一人、海外で活躍するシェフが一人。先述の「エチェバリ」で修業を積んだ後、一昨年独立。同じく薪火での調理を主体とする「アサドール」を開業。その名は「チスパ」。前田哲郎シェフは85位にランクイン。今後に期待だ。

今回は5大陸、38の地域から50のイスを争う格好になった。これは史上最多の地域数と言える。理由は、ミドルイースト&北アフリカエリアのベスト50ができたことによるドバイのランクインなどもその一つだろう。ガストロノミーの力で国を興し、地域を興すことを目指してきたベスト50にとっては、まさに念願かなってのこと。この秋には、カナダを含むノースアメリカのベストレストランが立ち上がる。ますますの多様性が開けて行くに違いない。ガストロノミーの潮流はどこへ向かうのか、楽しみは尽きない。

ラグジュアリーとは何か?

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