
「広島っちゅうたら、食べもんがうまい! 見てみい、厚生大臣賞受賞、もみじ饅頭(まんじゅう)!」
漫才ブームの寵児、B&Bのギャグで、もみじ饅頭は一躍、全国区となった。広島県内のもみじ饅頭店は何十倍にも増え、売り上げもそれまでとは比べ物にならないほどに伸びて、喜んだとあるもみじ饅頭メーカーの社長が、「今後、B&Bの島田洋七さんが広島に来たときには、飲食代全部こっちにつけなさい」と、言ったとか、言わなかったとか。とにかく、彼らによって広島のもみじ饅頭事情は爆発的に変わったのである。

もみじ饅頭は明治後期、宮島島内の紅葉谷にある旅館が、島の和菓子職人に「紅葉谷の名にふさわしい菓子が作れないか」と依頼したことが始まりだという。これにも冗談のような逸話があって、きっかけは宮島を訪れた伊藤博文が、紅葉谷の茶店に立ち寄り、茶を出した店の娘の手をとって、「紅葉のような可愛い手だ、食べてしまいたい」と、セクハラまがいのことを言ったとか、言わなかったとか。
モミジは広島の県木であり、紅葉谷には今でも秋になると国内外から大勢の観光客が訪れる。モミジはそれだけ、広島とはゆかりの深い存在だ。そうはいっても、最初のもみじ饅頭「紅葉形焼饅頭」が明治39(1906)年に完成してから119年も経ち、B&Bのギャグも知らない世代が増えている中、もみじ饅頭の勢いは衰えるどころか、伸びている。県外の年配男性に手土産で渡そうものなら「もみじ饅頭?(ずいぶん当たり前のもの、持ってきて……)」と薄笑いされることもなくはないが、食べてみれば印象は覆るはずだ。餡(あん)の上品な甘さ、ふわふわの食感に香ばしさも感じる生地との絶妙なバランス。宮島島内だけでも十数店、広島県内では数えきれないほどのもみじ饅頭店があるのは、各社が企業努力を続け、もみじ饅頭を進化させているからだ。それだけ数があっても、広島人にはそれぞれ「あの店が一番おいしい気がする」「私は地元の店だからここ」と、お気に入りのメーカーがあって、仕事で宮島に行けば喜々として焼きたてのもみじ饅頭を買う。誰より広島人が飽きていないのだから、ニーズは尽きない。
しかも、餡の種類も抹茶やチョコ、季節限定のさくら餡やパンプキン、パイナップルなど多岐にわたり、もちもち食感の生もみじや揚げもみじ、県産の牛のミルクをたっぷり使ったアイスもみじなんかもあって、バリエーションにこと欠かない。専門店や空港では店頭に何種類もの味を並べたもみじ饅頭バイキングを見かけるが、誰より喜んで列に並んでいるのは、そのおいしさを知る広島の子どもや若者だったりする。当然、広島を舞台にした映画にも出てくるし、カープにちなんだもみじ饅頭もある。広島には他にもおいしいスイーツが星の数ほど生まれているが、そのたびに、もみじ饅頭も進化してきた。とにかくまあ、来てみんさい、食べてみんさい。広島のもみじ饅頭は、うまいのだ。
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※『Nile’s NILE』2025年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています