そして一転、前菜の最後には、まぐろの脳天やブリのづけなど、濃厚なお造りが供され、これまでのアレノ氏の世界観ががらりと変わる。ここからは安田氏の独壇場だ。そこから14貫、小ぶりながら、攻めの握りが供される。まず初めに出されたのがアジ、続いてヒラメ、ノドグロ、シマアジなどと、季節のネタが続く。しゃりは心持ち柔らかな甘口で、精緻な仕事をした安田氏のネタを受け止め、かつ生かしている。握り方もほどよい圧で、口の中ではらりとほどけていく感覚がなんとも心地いい。
七輪で温めて甘味を増したボタンエビを、のりではさんで直接手渡しするなど、変化球にもわくわくさせられる。最後は大トロを揚げたエシャロットと生姜のすりおろしをはさんで握り、さらに、アレノ氏自らが、白トリュフをひらりと削るというまさに二人の合作。アレノ氏に聞いたところ、「大トロを他のネタより薄目に切るのを見て、生ハムを思い出したのです。で、これは!とインスピレーションがわき、香味野菜でアクセントをつけたところ、魅力が増しました。トリュフの香りが全体をまとめて華のある一貫に仕上がったことは言うまでもありません」と。まさにラビスの神髄ここにあり、の悶絶ものの美味しさだったことはいうまでもない。
そして赤だしに代わり、鶏と牛のコンソメをはさんでアレノ氏の作品である甘味=デザートへ向かう。寿司に合わせて考え抜かれたものばかり4皿だが、象徴的なのが、イチゴの砂糖釜(塩釜のように砂糖に卵白を混ぜて包んで焼く手法)にあおさのりを混ぜたもの。不思議にもイチゴの甘味が押さえられ、酸味が際だち、水菓子のごとく口直しにぴったりの品になるのだ。続いて味噌風味のジェラート。続いて液体窒素で紫蘇の葉をパリパリにした紫蘇の天ぷら。清涼感のある香りが際立ち、意外性に驚かされる。最後は海藻とジャスミンクリームのパイと、ぐっとフレンチに寄せた一皿だ。