まったく新しい寿司の楽しみ方を提供してくれる店が登場したといってもいいだろう。実は、アレノ氏は、パリ、モナコとすでに「ラビス」の名で寿司店を開いており、フォーシーズンズホテル大阪が3店舗目となる。「3軒目のラビス出店おめでとうございます」と言うと、にっこり笑いながらも、「ここは寿司の本場、日本です。失敗はできません」と、なみなみならぬ情熱と寿司に真摯に向き合う返事がかえってきた。それほど日本の魚と寿司にほれ込んだアレノ氏の寿司レストランの楽しみは、既存の寿司店とどのような違いがあるのであろうか。
いわゆるフュージョン的なものを想起するかもしれないが、それは全く異なる。コースは3部構成になっており、エモーションと名付けられたアレノ氏作の前菜4品と、握り手であり総料理長の安田至氏によるお造り、ここで前菜の部は終わり。続いて安田氏による握り14貫が供される。そしてうまみにかけて甘味=デザート4品で締めくくられる。
エモーションの中でも象徴的な一皿に、「アンディーブの豆腐」という料理があるが、これは、アレノ氏が、日本のごま豆腐にインスパイアされたもので、ピュレにしたアンディーブを葛100%で固めた、独特のコクと爽やかさを持った一皿。このように、日本料理に敬意を表しながらもまったくのオリジナルな皿を創り出すところが、さすがアレノ氏である。ほかにも、トレビュスとアンディーブの間に洋ナシとマッシュルームがサンドされ、昆布のソースがかかったサラダや、シャリを乳化させたソースを敷いた牡蠣の一皿。そしてもう一品が、透明なトマト果汁を豆乳で固めた豆腐。いずれも芳醇さはあるものの、そのあとに続くお造りと江戸前の握りを引き立てるべく熟考された、ラビスの寿司の前菜なのだ。