輪郭が際立つ伝統料理

湯浅大輔氏が2019年2月に構えた「新富町 湯浅」。近年、上質な飲食店が増え注目を集めるエリア、新富町の一角に位置する。湯浅氏が一人で調理を行う小規模の店ながら、丁寧に作られた、そして中国料理の伝統と奥深い味わいをしっかりと伝える料理が評判を呼ぶ。

Photo Masahiro Goda   Text Izumi Shibata

湯浅大輔氏が2019年2月に構えた「新富町 湯浅」。近年、上質な飲食店が増え注目を集めるエリア、新富町の一角に位置する。湯浅氏が一人で調理を行う小規模の店ながら、丁寧に作られた、そして中国料理の伝統と奥深い味わいをしっかりと伝える料理が評判を呼ぶ。

野菜料理6種の盛り合わせ

新富町 湯浅。「虎河豚の茶碗蒸し酸辣餡」、「鰆の燻製」、「野菜の盛り合わせ」
前菜3品は、上から「虎河豚の茶碗蒸し酸辣餡」、「鰆の燻製」、「野菜の盛り合わせ」。この順で提供される。鰆の燻製は、紹興酒に香辛料などを合わせたタレに鰆を漬け、軽く燻製にしたもの。野菜の盛り合わせは、変化に富む味わいが楽しい一皿。

たとえば今回紹介した、野菜料理6種の盛り合わせ。フェンネルで香りづけされた京ニンジンの細切り、自家製XO醤(エックスオージャン)と干し貝柱の風味で食べるサトイモ、自家製の発酵トウガラシで味付けしたレンコン、エビの卵を乾燥させた伝統調味料「蝦子(シャズ)」をからめた下仁田ネギ、塩漬けにしたアヒルの卵「鹹蛋(シェンダン)」の黄身とともに炒めたカボチャ、豆腐の発酵食品「腐乳(フウルウ)」のソースをかけた花ニラが一皿に盛り込まれる。
辛さ、凝縮した旨み、まろやかなコクなど変化に富んだ味がはっきりと感じられ、一つずつの料理は少量であるにもかかわらず、いずれもが強い印象を残す。

また、「素材については旬のものを自由に選びます。ただし味付けは、中国料理から外れたくない」と湯浅氏。
前菜のフグの茶碗蒸しでは、中国伝統の酸辣味のあんをかけた。

「フグはポン酢ともみじおろしで食べるのがおいしいと知っているので、同じ”酸味„と”辛み„の組み合わせである酸辣味のあんをかけました。日本料理には負けたくないんです(笑)」

黒酢の酢豚

新富町 湯浅。黒酢の酢豚
大きな塊の豚肉と、潔いビジュアルが印象的な黒酢の酢豚。肉はジューシーなローストポークのような食感。軽やかに仕上げたタレには、砂糖のほかハチミツ、上海料理でポピュラーなカラメルの調味料が入り、奥深いけれどもキレのある味。

一方で、明確なテーマのもと、伝統料理で新しい表現をすることも。
今回紹介した黒酢の酢豚のテーマは、「肉のおいしさ」。そのために、まずは肉を塊でしっとりとゆで、ジューシーな食感に仕立てる。その上で薄く衣をつけて揚げ、ややサラリとしたタレをからめて完成。

「肉の味が生きるよう、タレは軽やかに。コースの最後にフカヒレ料理を提供するので、それまでに口やおなかが疲れないように、という狙いもあります」

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。