季節ごと、文化ごといただく
招福楼の東京店は、丸ビルが竣工(しゅんこう)した2002年、その36階にオープンした。本店と同じ哲学を反映し、ビルの中にありながら、日本文化の粋を伝える静かな雰囲気を備える。とりわけ座敷の「十方の間」は、重要文化財である大徳寺孤篷庵忘筌席の写し。細部に至るまで小堀遠州好みの趣向が再現された、格調高い空間だ。また、そのほかの小間や椅子席は、落ち着いたしつらえと窓の外に広がるビル街の景色の両方を楽しめる造り。招福楼の当主、中村成実氏が考え抜いて実現した設計だ。
「私どもは料理屋ですが、料理だけを考えることはありません」と中村氏。「たとえば、来月になったらこの器を使いたい。であるなら、これに映える料理は……という具合に、全体で考えます」。なので、料理人の個性が出る幕はない。「今は個性の時代ですので、逆行しているのでしょう。でも、競争になっている中に入っていくのは大変(笑)。競争で、他との比較の中で評価されるあり方は好みません。料理やもてなしの本質は、別のところにある。それをお茶の心から学んでいます」