突き抜ける透明感、ぬくもりと奥行き

1998年5月、広尾にオープンした「アロマフレスカ」は、翌年には&ldquo予約が取れない店”となった。以来、麻布、銀座へと場所を変えながら、変わらぬ人気を獲得。イタリア料理の精神を引き継ぎつつ、柔軟に、自分らしく料理に取り組むオーナーシェフの原田慎次氏は、一時代を築いてなお、自然体で進化する。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

1998年5月、広尾にオープンした「アロマフレスカ」は、翌年には&ldquo予約が取れない店”となった。以来、麻布、銀座へと場所を変えながら、変わらぬ人気を獲得。イタリア料理の精神を引き継ぎつつ、柔軟に、自分らしく料理に取り組むオーナーシェフの原田慎次氏は、一時代を築いてなお、自然体で進化する。

食材の繊細な香りを、損ねない加熱が好き

「アカザエビのクルード(次々ページ)」は、ここ10年ほど作っている料理です。アカザエビは、ほぼ生。殻のみ、15〜30秒間、フライパンで強火で焼きます。この時、香りと甘みを引き出し、香ばしさを出さないことがポイント。アカザエビの繊細な風味を大事にします。

仕上げは、レフォールのソース、鮎の魚醤でマリネした谷中生姜(やなかしょうが)のみじん切り、フレッシュトマトなどとともに盛り付けます。アカザエビのやさしい味と旨み、ねっとりとした食感を、少し個性的な風味を持つ要素とともに、ただし表に出過ぎない強さで、楽しんでいただく一品です。

「スッポンのヴァポーレ」は、下処理したスッポンに生姜と金華ハムを挟み、1時間強蒸したもの。ドライトマト、イタリアンパセリ、ルッコラなどをきざんで混ぜ合わせた、当店で「プレアヴェルデ(緑のピュレ)」と呼んでいるピュレを添えます。スッポンの風味づけが生姜と金華ハムですから、中国料理の味わいです。金華ハムの塩気と旨み、香りがスッポンとよく合います。

好みでプレアヴェルデをつけると味に変化がつきます。私は、食材の風味を尊重する仕立てが多いです。白身魚なら、香ばしく焼くよりゆでる、蒸すほうが好き。本来の香りや味を、逃さずに生かしたいですね。

定番のラヴィオリ。メニューから外せない大事な一品

手打ちパスタの道具は、イタリアで買ったりいただいたものを、結構持っています。プロ用のものもあれば、家庭用の簡単なものも使っています。

アロマフレスカ、パスタ道具

手打ちパスタはメニューに必ず入れています。コースは、当店の定番の品を中心に組む「メニュー アロマフレスカ」と新作も含む「メニュー スペチャーレ」の2本がありますが、前者で欠かせないのが、約20年間作り続けている「じゃがいもを詰めたラヴィオリ バジリコ風味」です。

実は一時期、このラヴィオリをメニューから外したことがあります。そうしたら常連のお客様から「あのラヴィオリ、食べたかったのに!」との声を多くいただいて。それまで、ラヴィオリについて何か言ってくださる方はほとんどいなかったのに(笑)

長く作っている料理は、自分の中では普通すぎる存在になってしまうのですが、お客様にとっては当店に来た証しのように思っていただけている。定番料理の大切さを思い知りました。

野生児だった小学時代、バイトにはまった高校時代

食べ物に対する興味は、小さい頃から強かったです。私は栃木県の足利出身なのですが、母の実家があった鹿沼という自然豊かな場所で、小学校の頃夏休みを過ごしたのが、食の原体験として強烈に印象に残っています。
川に入ってヤスで魚を突き、河原で火で焼いて食べる。木の実でも野草でも、食べられると聞いたら何でも口に入れていましたね。本当に自然が深く、川の対岸に熊が現れたことも。その時は、ゴルフクラブを持ち出して兄やいとこと一緒にボールを打って、狙って遊びました(笑)。「川があるから怒ってもこっちには来られない」なんて言って。とにかく野生児で、その時に感じた自然の息吹は、もしかしたら料理人になるにあたっていくらかは役に立っているのかもしれません。

食の仕事に就こうと思ったのは、高校生の頃、週に5日、ガッツリとラーメン店でアルバイトをしたのがきっかけ。慣れたら、お客さんの少ない夕方の時間帯は私一人で回していました。ラーメン、餃子、野菜炒めなどのシンプルなメニューですがすべて作り、お会計も含め「いらっしゃいませ」から「ありがとうございました」まで全部やる。それが楽しく、特に目の前でおいしそうに食べてくれたり、「ごちそうさま!」と言われるとやりがいを感じました。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。