グランメゾンの伝統

2019年35周年を迎える、ホテルニューオータニにある「トゥールダルジャン 東京」。437年の歴史を持つ王侯貴族の美食の館、パリ本店の伝統を継承する世界唯一の支店の味を支えるのは、日本の人間国宝に近い存在といわれるM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)をこの春、授与されるシェフ、ルノー・オージエ氏だ。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

2019年35周年を迎える、ホテルニューオータニにある「トゥールダルジャン 東京」。437年の歴史を持つ王侯貴族の美食の館、パリ本店の伝統を継承する世界唯一の支店の味を支えるのは、日本の人間国宝に近い存在といわれるM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)をこの春、授与されるシェフ、ルノー・オージエ氏だ。

トゥールダルジャン 東京35周年、鴨の記念カードを一新

「トゥールダルジャン 東京」は、1984年、ホテルニューオータニ開業20周年記念事業の一環として誕生しました。今年35周年を迎え、伝説の“鴨の記念カード”のデザインが一新されます。

「トゥールダルジャンといえば鴨料理」。19世紀から続くこの伝統を作ったのは、当時のトゥールダルジャンのオーナーであり、現在もスペシャリテとして伝承されている「幼鴨のロースト」の生みの親、フレデリック・ドゥレールです。

後世にもこの鴨料理が継承されることを確信していた彼は、1890年、幼鴨一羽ずつに通し番号をつけ、その番号を記した記念のカードを料理とともにゲストに渡すことを思いつきました。それは鴨をカットするフレデリックの写真入り絵はがきになっていて、料理に感動したゲストがその場で友人たちにメッセージを書き、店から発送したそうです。郵便も写真も草創期だった当初、このカードは大流行し、店の名声をさらに高めることに貢献しました。

「トゥールダルジャン 東京」では、1921年に当時皇太子だった昭和天皇にお召し上がりいただいた53211番に敬意を表し、53212番から始まっています。5月には新しい鴨のイラストが入った、本店と同様のポストカードに生まれ変わります。

料理人一家に生まれて

曽祖父は料理人でした。祖母もレストランを営んでおり、私は6歳から10歳ごろまで学校が終わると、自宅ではなく、祖母の店に顔を出していました。昼休みになると祖父が車で迎えに来て、祖母の店でお昼を食べるのです。
といっても、ニンニクを潰すなど簡単な手伝いをしてから、祖父と一緒に食事をしていました。いつもまかないは、祖母が盛り付けるので、それを自分のスタイルで盛り付け直してから食べていたのを覚えています。

トゥールダルジャン、アルバム

あと祖母のレストランで印象に残っているのは、お客様の楽しそうな笑顔や、祖母のお客様への心のこもったおもてなしです。労働条件が厳しい時代で、お客様にとってレストランは、一生懸命働いた後に、おいしいものを食べに訪れるオアシスのような存在。時には店で歌ったり踊ったりするお客様もいて、私にとっては幸福感に包まれた、大好きな場所でした。学校にいても、早く昼休みにならないかな、と待ち遠しく思っていました。

趣味はジェットスキー

フランス南東部のグルノーブル地方の出身で、冬にはスキー場になる近くの山を、雪が溶けてから自転車で駆け下りるのが好きでした。でも、とてもスピードが出て危ないので、家族からは“禁止”されています。代わりに今、楽しんでいるのがジェットスキーです。

海と山が近い、神奈川県の大磯に住んでいるのも趣味のためのようなもの。スピード感のあるスポーツが大好きなので、海の上を爽快に走れるジェットスキーは最高ですね。ジェットスキーはフランスでやっていましたが、日本では改めて必要な免許を取得しました。

トゥールダルジャン、ジェットスキー

自然豊かな大磯の家の庭には、フランスの田舎を思い出して、窯を作りました。私が休日に窯料理を作ったり、ピザを焼いたりしています。フランスの田舎には、村に一つ共同の窯があったものでした。その窯でまずパン屋がパンを焼き、その後、女性たちも窯で料理をしていました。その窯を使った郷土料理をいろいろ作っています。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。