医食同源のイタリアン

美食と健康をテーマにしたアーティスティックな料理で、“モダン・キュイジーヌの革命児”と呼ばれるハインツ・ベック氏。その名を冠した唯一の店が東京・丸の内にある「ハインツ ベック」だ。ハインツ・ベック氏の薫陶を受け、右腕として今年から店を任されているのが、エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏である。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

美食と健康をテーマにしたアーティスティックな料理で、“モダン・キュイジーヌの革命児”と呼ばれるハインツ・ベック氏。その名を冠した唯一の店が東京・丸の内にある「ハインツ ベック」だ。ハインツ・ベック氏の薫陶を受け、右腕として今年から店を任されているのが、エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏である。

日本の包丁と食べ歩き

日本にいるからには、日本の文化に触れたいと思っています。中でも、日本の包丁は世界一。
先日、有名な「高村刃物製作所」で包丁を作ってもらったのですが、職人さんが手の大きさや重さまで量ってくれて、包丁が完成するまでに4カ月もかかりました。切れ味も持った感じも本当にすごくて感動しました。

仲間に見せるために、この包丁で紙を試し切りしている動画を撮ったりしています(笑)。もったいなくてまだ料理には使ってないのですけどね。ヨーロッパのシェフの間でも、「魚を切るなら日本の包丁が圧倒的にすばらしい」という声をよく聞きます。

休日には和食やイタリアン、フレンチの店を食べ歩いています。ハインツ ベックでは日本の生鮮食材を使っているので、日本料理店がどのように食材を調理しているかというのはすごく勉強になります。

イタリアンやフレンチでも、日本の方がどのような味を好むのか、いろんな店を見て勉強中です。やっぱり、イタリアとは少し違うようですね。これまでに、「日本料理 龍吟」「NARISAWA」「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」「傳」「菊乃井」などに行きました。祖父が農業を営んでいたこともあり、今後は日本の農家や漁師など生産者さんを訪ねてみたいです。

旨みをより抽出できる遠心分離機を備えるラボ

ハインツ ベックの独創的な料理を生み出すうえで欠かせないのが「ラボ」ですね。液体窒素やフリーズドライ(写真奥)を作るための機械、遠心分離機(写真手前)など機械が並ぶ様子は、まさしく実験室のように見える。

例えば、トマトソースでも遠心分離機を使えば、水分とトマトのピューレと油に分かれるので、水分を除いた濃縮されたトマトの旨みが感じられます。火を入れるというのは栄養学的には破壊する行為ですが、機械を使えば栄養分を残しながら、味や食感を変えたり、パウダーにしたりすることが可能です。

ハインツ ベック。遠心分離機

それに、ラボもキッチンも、シェフが来日した時に違和感なく仕事ができるよう、機材からテーブルの高さ、火加減まですべてローマの店と同じ。ローマの店のほうが規模が大きいので、日本はそのミニチュア版といったところでしょうか。ライブカメラも設置されていて、リアルタイムでローマのシェフにメニューの相談ができます。

三つ星シェフ、ハインツ・ベック

自身のレストラン「ラ・ペルゴラ」がローマで唯一、ミシュランガイドで三つ星を13年連続で獲得しています。20年以上前から、いち早く医食同源の哲学に注目し、著名な医学・栄養学者の協力を得ながら「美食と健康」をテーマにした研究を続けている料理人です。2018年にはイタリアアレッツォ大学から自然療法学の名誉資格も授与されています。
ローマの他にもシチリアやボローニャ、ポルトガル、ドバイ、ロンドンなどにレストランを展開し、独創的かつアーティスティックな体にいい料理で世界に感動を届けています。

三つ星シェフ、ハインツ・ベック

実はシェフ、1989年に初来日して以来、日本の食文化や美意識の高さに魅了され、「日本びいき」と語る親日家。日本の多彩な食材と食文化は、美食と健康というコンセプトにも調和することから、世界で唯一、自身の名を冠したレストランを東京にオープンさせたのです。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。