自然が宿す“本物”を求めて

銀座に店を構えて約15年、変わらず第一線で活躍し続ける奥田透氏。常に最上の食材、理にかなう技術、そして「本物の日本料理」を追求し、発信する。その料理は静かな迫力に満ち、まさに日本料理の特徴を浮き彫りにしたたたずまいだ。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

銀座に店を構えて約15年、変わらず第一線で活躍し続ける奥田透氏。常に最上の食材、理にかなう技術、そして「本物の日本料理」を追求し、発信する。その料理は静かな迫力に満ち、まさに日本料理の特徴を浮き彫りにしたたたずまいだ。

季節の食材を贅沢に。それがお椀の醍醐味

今回紹介したお椀(次ページ)がクエを主役に、冬の美味を盛り込んだ一品です。クエは、36kgもの大きさ。ここまで大きくなると魚を超えて、上質な白身の豚肉の趣さえあります。その生命力にあふれたクエを、たっぷりと味わっていただきます。

炙(あぶ)ったクチコも、十分な大きさを持たせて。舞茸(まいたけ)と芽蕪(めかぶ)とともに盛り付け、あられに切った柚子を添えます。

お椀をお吸い物だと考える料理人もいますが、私は茶懐石における「煮物椀」の在り方をベースにしています。
「煮物」と名が付くくらいなので、具材が大事。季節の恵みを盛り込み、まさに旬をいただく、贅沢な満足感を大事にしています。

もちろん、出汁も重要。椀種に沿う内容とし、その深い味わいをしっかりと楽しんでいただきます。

茶懐石での料理一品ずつに役割があるように、料理店の献立も「どれがメインディッシュ」というわけではなく、それぞれに存在感を持たせています。

ただ、お椀は大事な要素であることは確か。季節感が込められ、出汁の旨みも豊かで、油脂を加えるでもない、食材そのものでありながら、インパクトがある。そうした日本料理の世界観を伝えられる点が、お椀の魅力だと思います。

本物のウナギは、喉元から胃に落ちる時に旨さを感じる

世に出回っているウナギの99.6%が養殖で、天然は0.4%。その中でも1kgを超える大ウナギは1%か2%。
名前は「ウナギ」ですが、養殖はもちろん、天然の200~300gのものとは体の成り立ちも、成分も、味わいも異なる食材です。やはり迫力が桁違い。これを、炭火でタレ焼きにしました(次ページ)。

串打ちしたウナギは、皮を下にして炭火でしっかりと焼きますが、皮と身の間にある脂が溶け出てくるので皮は揚げ焼きのようになります。皮の内側にあるゼラチン質もしっかりと熱し、溶かし出すのもポイント。そして身はふっくらと……という技術はもう、前提。

ここまでの天然大ウナギとなると、ウナギそのものの存在自体が尊すぎて、料理人の技術なんかかすんでしまいます(笑)。それだけの世界観を持つ食材であり、そうした食材を使った料理こそが本物。

ちなみに本物の料理は、舌の上というより、のみ込んだ後、喉元から胃に届くまでの間に、最もエネルギーを感じるものです。この大ウナギがまさにそう。今回紹介したお椀のクエもそう。

やはり本物の食材でないとそこまで訴えかける力がなく、その力を自然のままにいただけることこそが、日本料理の醍醐味であり誇るべき美点なのだと思います。

包丁は「次なる一本」をいつも探していたい

包丁は好きで、ついつい買ってしまいます。今日並べたのが、今「一軍」として使っているもの。ふぐ引きが2本、柳刃が11本。加えて直し中の柳刃が2本あります。

銀座 小十、包丁

包丁に特にのめり込むようになったのは、修業中に「尺二」(一尺二寸、36cmの柳刃)の世界を知ったのがきっかけです。
扱うのが難しい包丁ですが、「切る」というのは究極の技術。尺二を自在に操り、切って食材の味を変えてこそ、本物の料理人であるということを教えてもらったと思っています。

いい包丁を見ると、自分の技量より包丁の品格の方が上か下か、わかるものです。なので私は「今年の自分はこれで行こう」と、新年にその年に使う包丁を2本選びます。
包丁は「次なる一本」を常に探していたい。それが自分の技量、精神の成長につながると思っています。

1 2
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。