挑戦し続ける職人

天ぷらの名店としてつとに知られる銀座の「てんぷら近藤」。職人歴52年となる主人の近藤文夫氏は名人の貫禄を備えるが、若い頃から「新しい天ぷら」への挑戦を続けてきた革新の人でもある。今もカウンターで天ぷらを揚げ続け、かつ、後進の職人、家庭、そして世界に向けて天ぷらの技術を情熱を持って伝える。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

天ぷらの名店としてつとに知られる銀座の「てんぷら近藤」。職人歴52年となる主人の近藤文夫氏は名人の貫禄を備えるが、若い頃から「新しい天ぷら」への挑戦を続けてきた革新の人でもある。今もカウンターで天ぷらを揚げ続け、かつ、後進の職人、家庭、そして世界に向けて天ぷらの技術を情熱を持って伝える。

てんぷら近藤。ごく細切りのにんじんに、ごく薄く衣をつけて揚げる
ごく細切りのにんじんに、ごく薄く衣をつけて揚げる。薄くパリパリと軽快な衣、細いながらみずみずしく、甘みと香りが凝縮したにんじんの組み合わせが格別。繊細かつインパクトのある一品。

天ぷらは挑戦、素材の旨みを引き出す

天ぷら職人歴52年。「てんぷら近藤」の近藤文夫氏は、長きにわたりこの道を開拓してきた名人中の名人だ。71歳になる今も昼、夜ともにカウンターに立ち続け、お客の目の前で天ぷらを揚げ続ける。

近藤氏のキャリアの始まりは、御茶ノ水の「山の上ホテル」。ホテル内の「てんぷらと和食 山の上」にて18歳で修業を開始し、23歳で料理長に就任。「店が厳しくて、先輩たちが辞めちゃったから」と笑うが、当時、同店はホテル内の不採算店。社長から「何をしてでも売り上げ上昇を」との命令が下り、近藤氏は考えた。

「天ぷらを和食の添えではなく、ジャンルとして確立できないか」と、フランス料理、イタリア料理、日本料理を考察。そこで「天ぷらにも野菜が必要」と着目する。24歳の時に社長の同意を得て、当時魚介類のみが基本だった専門店の天ぷらでは異例の、「野菜の天ぷら」を打ち出した。

「『野菜なんて総菜』『邪道』と随分たたかれましたよ」と近藤氏。さらに、野菜の風味と色を生かすには薄衣が向き、揚げ具合も色づかない程度が最適である、と工夫したが、これも従来とは正反対としてたたかれた。

しかし、お客からは強い支持を獲得。それを支えに、近藤氏は自分の信じる天ぷらを追求する。細切りのにんじん、厚みのあるさつまいも、そら豆のかき揚げ、アスパラガス……。次々と新しい天ぷらを創作し、それらは今では多くの店で定番として浸透するまでに至っている。

さらに、長く「職人の勘」とされてきた天ぷらの技術を、書籍で詳しく公開。

また、「天ぷらは余熱(蒸し)料理」と唱え、天ぷらを新しい視点から捉えなおした。天ぷらは「ただ揚げる」のではなく、奥深い加熱技法であることを、後進の職人たちに、また世間一般の人たちにわかりやすく伝え続けてきた。

「なぜ新しいことをしたり、技術を積極的に言葉で説明してきたかというと、天ぷらに廃れてほしくないから」と近藤氏。「天ぷらは挑戦です。素材の旨みを引き出す。それが我々の仕事」と誇りを持つ。

「若い世代の職人に、これからもずっと天ぷらをもり立てていってほしいですね」

てんぷら近藤 近藤文夫氏

近藤文夫
1947年東京都生まれ。御茶ノ水「山の上ホテル」内「てんぷらと和食 山の上」の料理長を務め、同店を天ぷらの名店に押し上げる。1991年「てんぷら近藤」を開業。著書、テレビでの出演多数。

●てんぷら近藤
東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル9F
TEL 03-5568-0923

※『Nile’s NILE』2019年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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